読書日記707:ノーマンズランド
タイトル:ノーマンズランド
作者:誉田哲也
出版元:
その他:
あらすじ----------------------------------------------
またしても同僚の殉職を経験し、心身に疲弊の残る姫川玲子が入ったのは、葛飾署管内で起こった若い女性の殺人事件捜査本部。心機一転、捜査に集中する玲子だったが、すぐに行き詰まってしまう。有力な被疑者がすでに別の所轄に逮捕されており、情報が流れてこないのだ。玲子は、あらゆる伝手をたどり、事件の全体像を探りはじめるが…。
感想--------------------------------------------------
*本感想にはネタバレを含みます。
「ストロベリーナイト」、「ソウルケイジ」、「ブルーマーダー」など何冊も読んでいる姫川玲子シリーズです。最新作、ではないですね。
若い女性の殺人事件の捜査を進める姫川たちは、容疑者が別件で逮捕されていることを知る。逮捕の容疑も殺人なのだがー。
姫川玲子が主人公の作品ではありますが、本作の主人公は冒頭に登場する庄野初海と江川利嗣でもあります。北朝鮮による拉致問題という重い題材を姫川シリーズのような刑事もので扱うことには賛否両論あるのかもしれませんが、少なくとも私はこの問題がどれだけ重い問題なのか、認識を新たにしました。
行方不明になった子供を待ち続ける親や知人にとって、その待つ時間がどれだけの重みを持っているのか、その間どんな感情を抱いて過ごして来たのか、そのことを考えさせられる作品でもありました。菊田や湯田、勝俣、日下といったいつもの面々の活躍ももちろん読んでいて心に残るのですが、それ以上にこの主題があまりにも重い。そして事件は解決しても、ハッピーエンドでもなんでもなく、重さとやるせなさだけが残る、苦しい作品でもありました。
新しいキャラクターとして検事の武見が登場します。飄々とした振る舞いの奥に獰猛な本性を隠し持つ武見は読んでいてあまり好感を抱くタイプのキャラクターではないのですが、姫川との間に何か起こりそうでもあります。周囲の人間が死にまくっていて、仲間からも「死神」と揶揄される美人刑事 姫川。次はやはりこの検事さんが犠牲者になっちゃったりするんでしょうかねー。
物語は姫川視点と江川利嗣視点が入れ替わりながら進みます。時折、菊田の視点も混ざったりしながら。この進め方は面白いのですが、気をつけて読んでいくと、姫川サイドは今回はさほど大きな動きをしておらず、各キャラクターの現在の位置の説明が中心になっていることに気付きます。これはやはり江川サイドと真相が重すぎるからでしょうかね。姫川シリーズとしてみると、「つなぎ」のようにも感じられました。
安定して読めるシリーズなので、次が楽しみです。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
この記事へのコメント