読書日記706:路


タイトル:
作者:吉田 修一
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
台湾に日本の新幹線が走る! 巨大プロジェクトに、それぞれの国の人々の個々に抱いてきた想いが繋がる。

感想--------------------------------------------------
吉田修一さんの作品です。「悪人」、「怒り」など強烈な、それでいて深い作品が多く、映像化も多くされている作品を書く方です。本書も期待をもって読んでみました。

台湾での新幹線敷設に向けて奮闘する春香。彼女には以前、台湾で知り合い、その後再会を果たせなかった人がいたー。

台湾への新幹線敷設にまつわる人々の人間模様。この本を一言で言うとそのような中身になります。新幹線敷設に携わる春香や安西、台湾を故郷とする葉山、台湾で生まれ、新幹線敷設に関わることになる○○…。多くの人々の営みが新幹線敷設に向けた時間軸と共に並行して描かれ、台湾で生きる人々の営みを浮き彫りにしていきます。

相当な台湾への愛着を感じられる作品です。読み進むにつれて暑い台湾の夏、日本と違う時間の流れ、台湾で生きる人々の考え方などが読者によく伝わってきます。作品の主題は「台湾」と言っても言い過ぎでないかもしれません。

吉田修一さんの作品にしては、珍しく(?)全編を通して穏やかな流れの作品です。もちろん台湾に生きる/生きた人々の生き方には山谷があるのですが、「悪人」や「怒り」と比較すると、よく言えば穏やか、悪く言うと地味な作品、という印象です。ただ、上にも書いたように台湾の描き方はやはりものすごくうまいです。

台湾を舞台にした出会いと別れ、幸せと不幸、人生の始まりと終わり、そうしたものを描き切った作品だと感じます。問題提起のようなものはないですが、読んで損することのない作品です。少なくとも私は、生きている間に一度は台湾に行ってみたい、と思うようになりました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B

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