読書日記703:火花


タイトル:火花
作者:又吉 直樹
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
売れない芸人の徳永は、天才肌の先輩芸人・神谷と出会い、師と仰ぐ。神谷の伝記を書くことを乞われ、共に過ごす時間が増えるが、やがて二人は別の道を歩むことになる。笑いとは何か、人間とは何かを描ききったデビュー小説。第153回芥川賞受賞作。芥川賞受賞記念エッセイ「芥川龍之介への手紙」を収録。

感想--------------------------------------------------
一時期、とても話題になっていた、お笑いコンビ ピースの又吉さんの作品です。ようやく読むことが出来ました。

漫才師を目指す徳永は、天才肌の芸人、神谷と出会う。徳永はどこまでも笑いにひたむきな神谷に惹かれ、師と仰ぎ、共に時を過ごすようになるがー。

芸能人やスポーツ選手が書いた作品が話題になることはよくあります。しかしそれはその人の持つネームバリューが読者を惹き付け、結果としてよく売れるから、という例が多いように感じられます。読んでみて分かるのですが、本書はそのような本とは一線を画しています。作家が又吉さん、ということを抜きにして、作品自体が純粋に面白い。間違いなく芥川賞に匹敵する作品です。

お笑いの世界というのは一般人にとっては馴染みのない世界かと思います。その世界を本書ではしっかりと描き、そこに生きる人々の生き様や行く末をしっかりと描いています。正直、本書を読む前と後では、テレビに出てくるお笑い芸人たちを見る目が変わってきます。お笑いの世界で売れたい、有名になりたいという思いを持った数多の人々の中で、成功者と呼ばれる本当に一握りの人間が、テレビに出て名前を覚えられていく。一方でほとんどのお笑い志望の人間は知らぬ間に消えていく。その現実を本作ではしっかりと描いています。

本書の主要な登場人物である徳永と神谷は方向性の違いはあるにせよ、二人とも徹底的にお笑いに対して真面目でストイックです。このお笑いへの真面目さが、本書でしっかりと描ききられています。これは間違いなく著者の表現力、文章力の成せる技です。お笑いと本の両方に対して真面目だった著者だからこそ描ききれた作品であり、そのような作品に出会えたことは読み手にとっては幸運なことだとも感じました。

本書の主人公、徳永は間違いなく著者、又吉さんですね。又吉さんをイメージしながら本書を読むとしっくりくるし、逆に又吉さんの人柄や考えていることも分かるような気がします。一方で先輩芸人である神谷は誰なんだろうか?という疑問が最後まで残りました。笑いに対して真面目ながら、危うさを醸し出す男性芸人。残念ながら思いつきませんでした。。。

ある一つのことを極めるにはそのことに対して徹底的に身動きできなくなるまで考え抜くしかない。しかし一方で、そんな一般人の努力を平然と越えていく天才的な人間もいる。そんな当たり前のことをしっかりと描いた作品です。文章力は非常に高いですが、この先、自分の得意分野以外の領域でどのような作品を描けるのか、とても楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A

この記事へのコメント