読書日記689:コンビニ人間
タイトル:コンビニ人間
作者:村田 沙耶香
出版元:文藝春秋
その他:第155回芥川賞受賞
あらすじ----------------------------------------------
36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが…。「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作。第155回芥川賞受賞。
感想--------------------------------------------------
芥川賞受賞作です。ずっと前から読もうと思っていたのですが、ようやく読むことができました。
三十六歳になる恵子は高校卒業以来十八年間、コンビニで働き続けている。コンビニ店員として以外の生き方では世の中に馴染めない恵子の前に、やはりまっとうに生きられない白羽が現れるー。
「喧嘩を止めて」って言われれば喧嘩している二人を金属製のスコップで殴って止めようとして、死んだ小鳥を見れば、「かわいそうだね」の前に「焼き鳥にしよう」って考えてしまう主人公の恵子。でも主人公の恵子みたいな人って世の中に実はたくさんいるだろうし、自分にもその一部はあるんだろうなーっていうのが読み終えた感想。誰しも人と少しずれた部分はあるものです。
最近はよく「ありのままの自分でいい」っていう言葉が使われるけど、「ありのままの自分」を曝け出したら生き難くてしょうがない、っていうのが世の中の大半なんだと思う。そして世の中に馴染むために他人の生き様を見て、その人を真似する。そうした人が多いのが真実なんだと思う。特に社会人になり「会社」や「家族」といった小さなコミュニティで過ごさなければならない人はいろいろな制約で真似しなければならない部分が多い、って思う。
「ありのままでいい」といいながら、ありのままの他者を受け入れられるほど今の日本の世の中は寛容ではないし、放っておけるほどドライでもない。本書で書かれているコンビニのように、異物が来たら修正を強いるし、修正されなければ弾き出してしまう。よく外国人が日本に来て驚くのはこのあたりなんだろうなあ、って思ったりする。当然ながら外国の方が日本よりも個性を認めているだろうしね。
普通でいられず、社会に馴染むことのできない恵子なのに、コンビニという世界には完璧に馴染めてしまうところがとてもおもしろい。これも一つの才能なんだと思うけど、それをポジティブにとらえられないのがきっと日本なんだろうなあって思う。「いいじゃん、それでも別に」ってなかなか思えない感じ。
この種の不寛容は日本の社会の隅々にまで行き渡っているので、それがまた大変だなあ、って思う。日本がなかなかブレークスルーを生み出せない原因かもって思ったりもするし、寛容や自由さが売りにされている企業や大学なんかを目にすると、逆に「寛容で自由でなければならない」っていう不寛容に絡め取られているのでは?って勘ぐってしまう。
結局のところ、自分に自信が持てないから他人を見て粗を探して不寛容になるんだと思う。それは本書に出てくる恵子を取り巻く人々もきっと同じ。これが外国ならきっとこんな話は書けないだろうな、と思う。
面白かったし、とても日本的な作品とも感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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