読書日記680:かがみの孤城


タイトル:かがみの孤城
作者:辻村 深月
出版元:ポプラ社
その他:2018本屋大賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

感想--------------------------------------------------
辻村深月さんの作品ですね。ちょうど最近、本屋大賞受賞が決まりました。とてもこの著者らしい作品だと思いました。

クラスメイトとの問題から不登校になったこころは、ある日、家の鏡を抜けて城にやってきた。そこで待っていたのは狼の面をつけた少女と、こころと同じような境遇の6人の少年少女だったー。

心の描写がとても繊細で、感情が登場人物に寄り添っている作品です。これはこの著者の作品全般に言えることだと思いますが、特に本作はそれを感じました。不登校になったこころの心境、みんなが学校に行っている日中を一人部屋で過ごす気持ち、担任の先生との葛藤、親やスクールの先生への期待と失望ー。そうした心情がとてもリアルで繊細で、本当にこのようなことを著者も体験したのではないだろうか?と思ってしまうほどです。物語の後半で描かれる城に集められた他の6人の心情の描写も同じように繊細でリアルで、これが読み手の心を打ちます。

物語には大きな謎が仕掛けられています。しかし、物語の最後とエピローグでわかるこの仕掛けには、勘のいい人であれば途中で気付くのではないかと思います。でもそうした仕掛けを抜きにしても、本作は秀逸ですね。それはやはり本作の要となるのは登場人物たちの心の描写であり、そこが非常にしっかりと描かれているからだと感じます。

6人それぞれのリアルと、そのリアルから逃げるための城ー。この城のような場所を求めている人は、世の中にはたくさんいるのだろうな、と感じました。そして物語では、最後にその居場所の無い人たちに対して、希望を示していると感じました。

「わたしたちは助け合える」

たとえリアルな世界で出会うことがなくても、自分と同じような境遇の人間がこの世界に存在することがわかれば、それは励みにもなるし、助けにもなる。そしてそのことが何よりも重要なんだ、と本書では言っているように感じられました。

「生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。」

本書のあらすじに書かれているこの言葉はまさにこの本を表している言葉だと思います。「凍りのクジラ」や「僕のメジャースプーン」などいろいろな本を読んできましたが、それらの本に共通していて、弱い者の立場を心を、しっかりと描いている本だと思います。そして、だからこそ本書は本屋大賞を受賞したんだろうな、と感じました。

本作はぜひアニメ化してほしいですね。正直、実写では後半〜最後の部分は描ききれないし、俳優や女優にばかり眼が行ってテーマもちゃんと描けないと思います。美麗な絵でしっかりと描ければ、本作は間違いなくヒット作になると思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

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