タイトル:文庫 技術者たちの敗戦
作者:前間 孝則
出版元:草思社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
大戦中の技術開発研究は、二十代~三十代の若き技術者たちが担っていた。情報遮断と材料不足の厳しい状況下で多くの成果を上げるが、敗戦によって開発の断念を余儀なくされる。しかし、彼らは渾身の力を込めて立ち上がり、新しい産業に技術を転用させ、日本を技術大国へと導いた。零戦の設計主務者である堀越二郎、新幹線の生みの親・島秀雄、ホンダF1の中村良夫など、昭和を代表する技術者六人の不屈の物語。現在の日本の基盤を支えた、若くも一流の技術者であった彼らの哲学と情熱の軌跡をたどる。
感想--------------------------------------------------
この著者の著作「マン・マシンの昭和伝説
本作で紹介されるのは、零戦の設計主務者の堀越二郎、新幹線の生みの親の島秀雄、F1でサプライズを起こした中村良夫、電電公社民営化の立役者 真藤恒などです。詳細は省きますが、それぞれどの方も個性があり、形は違えど「時代を駆け抜けた」という表現の似合う方々だったと感じます。
本書で特に印象的なのは、堀越二郎と島秀雄の技術者として生き方です。功績を残しながらもそこに頓着せず、一技術者として最後まであり続けた姿は、今の時代にはあわないかもしれませんが、尊敬できると感じました。また実直、頑固、という言葉が似合う方々が多いと感じました。自分の思いを簡単には曲げない、しかし納得できる理由があれば、そこは潔く曲げる。そうした強さと真面目さを感じます。
本書はそれぞれの方々の個性を強く描き出し、戦中戦後という激動の中でのそれぞれの立場、翻弄される運命の中でもがく姿などを鮮明に、強烈に描いています。だからこそ読み手も惹き付けられるんですね。自分でも驚くほど速く本書を読み終えました。
また一方で、戦中・戦後という本作の登場人物たちが生きていた時代と、現在の違いについても考えることが多いです。「彼らのような人材が今もいたら…」なんてことは簡単には考えられないです。時代が違うということは求められる人材が違うということでもあり、彼らのような人材は、今の世の中では生きにくいんだろうな、と感じます。真面目さ、実直さ、といった重たいものは煙たがれ、臨機応変さ、柔軟さ、といった軽いものが喜ばれる時代のように感じます。きっと今の世の中のどこかにも彼らのような人たちはいるのかもしれませんが、不遇だったりするのかな、と思ったりもします。
良くも悪くも「戦中・戦後」という激動の時期を駆け抜けた人々と、全てがシステム化され、スピードが重視される今を生きる人々では性質も時代に求められる特質も大きく異なると思います。どちらがよかった、という議論はほとんど意味が無いですね。個人的には将来的に求められる人材はどのようなものなのか、そこを予測してみるのが楽しいかな、なんて感じます。昭和の歴史をはっきりと残されている、いい本でした。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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