読書日記676:煙か土か食い物


タイトル:煙か土か食い物
作者:舞城 王太郎
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
腕利きの救命外科医・奈津川四郎に凶報が届く。連続主婦殴打生き埋め事件の被害者におふくろが?ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!故郷に戻った四郎を待つ血と暴力に彩られた凄絶なドラマ。破格の物語世界とスピード感あふれる文体で著者が衝撃デビューを飾った第19回メフィスト賞受賞作。

感想--------------------------------------------------
舞城王太郎さんのデビュー作です。読んでみたいと思っていた作品です。メフィスト賞受賞作ですね。

アメリカの病院で腕利きの外科医として鳴らす四郎は、母親が犯罪に巻き込まれてこん睡状態と聞き、日本に戻る。そこで待っていたのは犯罪と暴力と、四郎の兄弟たちと父親だったー。

句点がなく、文章に切れ目がなく、少ない段落で書き続けられた本作は、その薄さとは裏腹に読み応え十分です。内容的にも読み応え十分ですね。犯罪の頻発する福井の四郎の故郷、暴力に彩られた奈津川の二男と父親の確執、そしてそんな重さを吹き飛ばす、軽快でリズムに乗った四郎の語り口。平凡な言い回しだけど、個性的で独創的です。

「煙か土か食い物」このタイトルが何を表すのか、なんとなく想像はついていたのですが、まさにその通りでした。人が死んだ後になるものですね。焼かれて煙になるか、埋められて土になるか、誰かに食われるか。この言葉は途中何度か出てきますが、最後の方で出てくる描き方がとても好きでした。「人は死んだら煙か土か食い物になるだけ」「でも思い出は残された人の心に残る」。うーんべたかもしれないけれど、この凄惨ともいえる物語の中で語られると、胸に響くものがあります。

文体の軽快さと、物語の重さと、ところどころに差し込まれる真実に近い何か。その組み合わせが絶妙で、読んでいてはまっていくんですね。確かに、他の作家にはない、何かを持っていると感じます。個人的には「阿修羅ガール」よりもこっちが好きかな。原点、という印象と、家族を題材にしているあたりが。他の作品も読んでみたいけど、ここまでの印象では物語によって作風が全く違っているので、どんな作品なのか予想がつかないところが、また面白いです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

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