読書日記671:教団X


タイトル:教団X
作者:中村 文則
出版元:集英社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
突然自分の前から姿を消した女性を探し、楢崎が辿り着いたのは、奇妙な老人を中心とした宗教団体、そして彼らと敵対する、性の解放を謳う謎のカルト教団だった。二人のカリスマの間で蠢く、悦楽と革命への誘惑。四人の男女の運命が絡まり合い、やがて教団は暴走し、この国を根幹から揺さぶり始める。神とは何か。運命とは何か。絶対的な闇とは、光とは何か。著者の最長にして最高傑作。

感想--------------------------------------------------
中村文則さんの本作は読んでみたいと思っていましたが、ようやく読むことができました。

疾走した女性を追って、松尾という老人が主催する団体に辿り着いた楢崎。楢崎は、この団体と相対する「教団X」の存在に気付くー。

性描写も残酷描写もありのどぎつい作品です。さらに宇宙の成り立ちや仏教の世界観についての描写もあり、ものすごくスケールの大きな作品、と感じました。物語の主軸は二つの団体と、その主催者や関連メンバーの生い立ち、さらに実行に移されようとする一つの壮大な計画なのですが、テーマは生きるということ全般になります。

二人の教祖や幹部の言葉、生い立ちを介して著者が言いたいのは「生きる」ということそのものになるかと思います。ストーリーはミステリーサスペンス仕立てで全体を簡単に説明することは難しいのですが、もっとも印象に残ったのはドストエフスキーの言葉の引用の箇所と、最後のある登場人物の言葉「共に生きましょう」でした。ドストエフスキーの「感情は理性には従わない」といった趣旨の言葉はものすごく納得です。

戦争を生き抜いた教祖である松尾の体験談、テロリストに囚われ、死を待つ身となった体験を持つ高原、そして医師としての希望と、犯罪者としての絶望を与えてきた沢渡。登場人物のそれぞれが観点は違いながらも「生きる」ということ、そしてよりよい生、世界を目指そうとしていること。そうしたことが強く伝わってくる作品です。

混沌としてどぎつく、熱く、色々な意味で濃く記憶に残る作品でした。最近書店に並んでいる「R帝国」も読んでみたい作品です。そのうち読もうかと思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

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