読書日記670:蝶のいた庭


タイトル:蝶のいた庭
作者:ドット・ハチソン、 辻 早苗 (翻訳)
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
FBI特別捜査官のヴィクターは、若い女性の事情聴取に取りかかった。彼女はある男に拉致軟禁された10名以上の女性とともに警察に保護された。彼女の口から、蝶が飛びかう楽園のような温室〈ガーデン〉と、犯人の〈庭師〉に支配されていく女性たちの様子が語られるにつれ、凄惨な事件に慣れているはずの捜査官たちが怖気だっていく。美しい地獄で一体何があったのか? おぞましすぎる世界の真実を知りたくないのに、ページをめくる手が止まらない――。一気読み必至、究極のサスペンス!

感想--------------------------------------------------
本書は「書評でつながる読書コミュニティ 本が好き!」から献本いただきました。ありがとうございます。ミステリー、というには謎解き要素があまりなく、サスペンス・ホラーに近い、と感じました。サイコパスサスペンス、でしょうか。

本書は事件が起きた後の場面、被害者と思しき”マヤ”と呼ばれる一人の女性に対するFBIの取り調べのシーンから始まります。マヤによって徐々に語られる事件の全貌に読者はどんどんと惹きつけられていきます。

十六歳から二十歳までの女性ばかりを軟禁した<ガーデン>。そこの管理人である<庭師>のおぞましい趣味と、身も凍るような彼女たちの運命。そうしたサスペンス・ホラー要素を縦軸に、<ガーデン>で生きる女性たちの生活や人間関係、マヤの過去などを横軸に物語は展開していきます。

読んでいて私は怖さはあまり感じませんでした。しかし、<庭師>の倒錯した愛情表現や、女性たちの運命、そして<ガーデン>の描写に惹きつけられ、一気に読んでしまいました。詳しくは読んでいただきたいのですが、定められた運命と、その運命の中で必死に生きようとする女性たちの姿に、ジャンルは全く別なのですが、私は「わたしを離さないで」を思い出しました。

女性たちの生き様や、後半になって<庭師>の息子を含めてさらに複雑さを増す人間関係の描写が前景だとすると、舞台となる美しい<ガーデン>とそこで蝶のように生きる女性たちの官能的な姿が背景となり、物語を際立たせていると感じます。美しくもおぞましい物語で、その美しさとおぞましさに惹きつけられていきます。

直接的な残酷表現は最小限に抑えられている、と思います。しかし性的描写は抑え気味ですが多く、この手の倒錯系ミステリーが苦手な人には全くお勧めできません。しかしそれでも私は一気読みしてしまい、読み終えた後にはこの<ガーデン>の様子が目の前に浮かぶようでした。

インパクトは非常に大きく、記憶に残る作品です。万人受けはしないと思いますが、個人的にはとてもいい本を献本していただいた、と感じました。ビジュアルが目に浮かぶため、映画化しても映えるだろうな、と感じます。(R指定確実、しかも日本ではほぼ不可能だと思いますが…。)きっと原作は映画化もされると思います。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

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