読書日記665:流
タイトル:流
作者:東山 彰良
出版元:講談社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
一九七五年、台北。内戦で敗れ、台湾に渡った不死身の祖父は殺された。誰に、どんな理由で?無軌道に過ごす十七歳の葉秋生は、自らのルーツをたどる旅に出る。台湾から日本、そしてすべての答えが待つ大陸へ。激動の歴史に刻まれた一家の流浪と決断の軌跡をダイナミックに描く一大青春小説。直木賞受賞作。
感想--------------------------------------------------
直木賞受賞作です。評判も高く、気になっていた本です。文庫化されて書店に並んでいたので読んでみました。
台湾に生まれた秋生は、幼いときに祖父を殺される。捕まらない犯人のことを胸の奥に秘めながら、秋生は無軌道な青春時代を過ごしていくー。
濃密な作品です。台湾の猥雑な街並、活気に溢れた人々、そうしたものが読んで数ページで目の前に広がります。その描写がとてもリアルで、酔いそうになりました。主人公の秋生、殺された祖父、厳しい父、法螺ばかり吹く明泉おじさん、船乗りの宇文おじさんなどなど登場人物の個性も強すぎです。
替え玉受験がばれての放校、幼なじみとの初恋、やくざものとの争いなど、猥雑で熱気に溢れた青春時代の描写が台湾というこれまた活気に溢れた世界を背景にこれでもかとばかりに描かれます。ストーリーの描き方や描写の濃密さに、「これは著者の半生を描いた自伝なのでは?」と最初は思いましたが、どうやらそうではないようですね。これだけリアルに、濃密に台湾と言う世界で生きる人々を描けるというのは、著者が台湾生まれだからということはあると思いますが、すごいことだと思います。
舞台の一九七五年という年は、戦後の混乱が落ち着いた時期ではありますが、戦争経験者がまだ多く社会に残っていて、戦争の記憶を共有できていた時代でもあります。戦争で多くの人を殺し、最後は自分が殺された祖父と、その祖父とともに戦争を生き抜いた老人たち。彼らの話がところどころで挟み込まれ、主人公である秋生の心を揺さぶります。祖父はなぜ、誰に殺されたのか?最後まで読んで、この本はミステリーでもあるのだ、と実感しました。
ロバート・ハリスさんのあとがきも秀逸です。そのあとがきに以下の著者の言葉が書かれていました。
「映像が目に浮かぶ小説を書くのはたやすい。わたしにとっての問題は、音楽が聴こえてくる文章が書けるかどうかなのだ。体臭のする一文、血の様相を帯びた一言、世界をぶつ切りにする句読点ーそれは小手先のことではなく、魂の問題なのだ」
読んだ瞬間、この言葉こそ本作を表している、と感じました。ノンフィクションかと思わせる、リアルで濃密な描写と魂を揺さぶる秋生の生き方。ドロドロとしてぐちゃぐちゃで、マグマのような作品です。ところどころに挟み込まれる、秋生の、人生を達観したような言葉にははっとさせられます。手元に置いておきたい作品だと感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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