読書日記658:華竜の宮(上)


タイトル:華竜の宮(上)
作者:上田 早夕里
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は“魚舟”と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす―。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

感想--------------------------------------------------
ずっと読んでみたいと思っていた作品です。日本SF大賞受賞のSFの名作です。

海底隆起で海の割合が大幅に増加した未来。海上民と陸上民に分かれて暮らす人間たちの中、外洋公館に勤め陸上民と海上民の仲立ちをする青澄は、海上民の長、ツキソメと出会う。海と陸、それぞれの立場を尊重しようとする青澄の思惑と裏腹に、陸上民の間ではきな臭い謀略が動き始めるー。

良質のSFの例に漏れず、本作もその世界観の創り込み、裏付けが精緻です。海底隆起が発生するメカニズム、海洋の民の文化・生活、魚舟・病潮といった独特の設定などなど、世界観を完璧に構築できていると感じます。物語の中に作り上げられた著者独自の世界を堪能するーこれがSFの醍醐味と言えるかと思います。そしてこの作品はこの醍醐味を存分に味わうことが出来ます。物語の中に入り込み、なおかつその世界観が非常に心地よい。こういう作品に出会えたときは本当に幸せを感じます。

特に本作では地球という惑星の環境が激変するため、そのあたりの説明が長くなるのですが、その説明が精緻でわかりやすいため、全く飽きることがありません。地球規模の変動に対してどのように立ち向かうのか、下巻への期待が膨らみます。ストーリーや登場人物も非常に魅力的なのですが、どちらかというとその世界観が魅力的な作品ですね。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

この記事へのコメント