読書日記645:横浜駅SF


タイトル:横浜駅SF
作者:柞刈湯葉 (著), 田中 達之 (イラスト)
出版元:KADOKAWA
その他:

あらすじ----------------------------------------------
改築工事を繰り返す“横浜駅”が、ついに自己増殖を開始。それから数百年―JR北日本・JR福岡2社が独自技術で防衛戦を続けるものの、日本は本州の99%が横浜駅化した。脳に埋め込まれたSuikaで人間が管理されるエキナカ社会。その外側で暮らす非Suika住民のヒロトは、駅への反逆で追放された男から『18きっぷ』と、ある使命を託された。はたして、横浜駅には何があるのか。人類の未来を懸けた、横浜駅構内5日間400キロの旅がはじまる―。

感想--------------------------------------------------
最近では小説投稿サイトが多くありますが、その中の一つ、KADOKAWAが設立した「カクヨム」で有名となったのが本作です。これだけのクオリティの本が投稿されるのか、と思うと小説業界はたいへんだな、と思ったりもします。それほど面白かったです。

増殖を繰り返し、本州を覆い尽くした「横浜駅」。駅孔と呼ばれるわずかな地域でエキナカから排出される食料などで生きてきたヒロトは、キセル同盟の一員を名乗る男の言葉にいざなわれ、十八切符を手に横浜駅に足を踏み入れるー。

本書はその世界観、発想が独創的すぎです。増殖を繰り広げるのが「横浜駅」。SUIKA(SUICAでなく、SUIKA)を持たずに横浜駅構内(エキナカ)に立ち入った者は自動改札と呼ばれるロボットにより強制的にエキナカから排除される。日本本土は全て横浜駅に覆われ、富士山は夏場になると横浜駅のエスカレーターに覆われる。どんな設定だよ、と突っ込みを入れたくなりますが、その内容、背景が非常にしっかりしているため、物語の骨格が揺らぎません。人の予測の斜め上を行く設定の、本書のような作品こそがSFと言うのだろうな、と感じます。

駅や鉄道に関する様々な言葉がいたるところに表れてきて、もうそれが面白くてたまりません。武器となる銃の名前がサクラ、やミズホと言ったりします。しかしそれだけではなく、物語的にもとてもしっかりしています。十八切符が有効な五日間の間に目的地を目指すヒロト、横浜駅侵攻の防波堤として戦うことに嫌気がさして逃げ出そうとするトシル、なぜ横浜駅は増殖を続けるのか、どうすれば増殖を止められるのかー。

構造遺伝界、スイカネット、などなど、SF好きにはたまらない凝った設定も多くて、読んでいて本当に楽しいです。一方でヒロトやトシルの生き方もしっかり描かれています。読んでいてわくわくさせる。SFっていうのはこういう作品なんだろうな、と感じました。

様々な謎の果てに辿り着いた物語の終わりには、人の歴史の繰り返しのようなものを感じさせました。設定はとんでもないのに、意外と硬派な作品です。万人受けもするのではないでしょうか。個人的には久しぶりに楽しいSFを読んだな、と感じました。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

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