読書日記637:殺人犯はそこにいる


タイトル:殺人犯はそこにいる
作者:清水 潔
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
5人の少女が姿を消した。群馬と栃木の県境、半径10キロという狭いエリアで。同一犯による連続事件ではないのか?なぜ「足利事件」だけが“解決済み”なのか?執念の取材は前代未聞の「冤罪事件」と野放しの「真犯人」、そして司法の闇を炙り出す―。新潮ドキュメント賞、日本推理作家協会賞受賞。日本中に衝撃を与え、「調査報道のバイブル」と絶賛された事件ノンフィクション。

感想--------------------------------------------------
本書は近くの本屋で買いましたが、文庫の上にさらに一枚、ブックカバーがかぶされ、タイトルを隠して売られていました。ある書店員の、「ぜひ読んでほしい」という思いからそのようにされていたようです。そこまでされる本書はどのような本なのか、興味を持って読んでみました。

本書は北関東、栃木・群馬県境付近の半径十キロメートル圏内で十七年の間に五人の幼女が殺害、あるいは行方不明になっている事件、通称「北関東連続幼女誘拐殺人事件」を追った報道記者の記録です。事件のうちの一つは「足利事件」と呼ばれ、犯人と名指しされていた菅家利和さんが逮捕から十七年の後に冤罪として釈放されています。報道記者でもある著者は、この事件を当初から徹底的に追い続け、菅家さんに寄り添い続けてきており、その迫力たるや相当なものです。読み始めた最初は、記者である自身を中心に据えた一人称の書き方、少々大げさともとれる書き方に違和感を感じましたが、最後の方ではその理由もわかり、全く気にならなくなりました。

本書を読んで恐ろしいと思えた点は二点です。その一つ目は、権力というものの恐ろしさです。検察、科警研、警察、それらが全て団結して菅家さんを犯人に仕立て上げたように、本書を読んだ人は感じるのではないでしょうか。曖昧なDNA型判定、強要ともとれる自白調書の作成、そうしたものが警察の威信のためだけに無実の人を犯罪者に仕立て上げていきます。そして間違いを認めようとしない体質は、本当に恐ろしいです。信用やプライド、威信といったもののために人の命さえも踏みにじろうとする権力の恐ろしさ、そこに立ち向かおうとする人々の勇気、そうしたものに心が震えます。

二点目は「真犯人がまだ捕まっていない」という点です。しかも、本書の中では真犯人と目される人物まで特定されています。なのに警察は動かない。これもプライドや威信の問題なのでしょうが、一般市民としては犯人がまた事件を引き起こすのではないかと気が気ではありません。本当に恐ろしい事です。

権力者や権力を持つ組織が自らの立場や威信を守るために道理を通さず、結果として弱い者がひどい目を見るー。これは日本ではよくあることです。最も大きな組織が国だとするならば、企業、学校、家庭などヒエラルキーの存在する場では少なからずこのような問題は発生し、弱者は多くの場合泣き寝入りし、時には弱者側の人命に関わる事件となっていると感じます。

これは日本特有の問題なのだろうか?としばし考えたりします。社会に流動性がなく、組織の出入りが自由に出来ない日本だから起きる問題なのだろうか?と。多くの日本人に取って、どんなにひどくても所属する組織ー国も会社も家族も捨てる事は簡単に出来ない。だから組織が魅力的でなくても人は我慢するしかなく、泣きながらもそこに残らざるを得ない。もっともっといろいろなことが変わる必要があると感じますし、海外の国ではこのような事件の際の国の反応はどうなのだろうか?と考えたりもします。

「調査報道のバイブル」と本書は呼ばれているそうですが、その言葉に異論は全くありません。奪われた幼い命をおもい、再発防止を心に近い報道し続ける著者の姿勢には感服です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

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