2016年10月01日

読書日記612:わたしを離さないで



タイトル:わたしを離さないで
作者:カズオ・イシグロ
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春 の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇 妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々 がたどった数奇で皮肉な運命に……。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく――英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』を凌駕する評されたイシグロ文学の最高到達点。解説/柴田元幸。

感想--------------------------------------------------
名作と呼ばれる作品です。少し前に綾瀬はるかさん主演でドラマ化もされていました。期待をもって読んでみました。

ヘールシャムと呼ばれる施設で生まれ育ったキャシー、ルース、トミー。育つにつれて理解する施設の特異な特徴と、自分たちの使命が、各々の関係と生き方に影を落としていくー。

本書はSFなのですが、SF色はさほど強く感じさせません。キャシー、ルース、トミーの三人の関係性とその生き方、そして運命を受け入れていくまでを描いた、人間の作品と言っていいと思います。あとがきにもありますが、全編、抑制が利いていて、描写が緻密です。そしてその緻密な描写によるリアリティが読者の胸に迫ります。噂通りの名作だと思います。

幸せな幼年時代を送っていた三人。しかし成長するにつれて施設の裏の顔と自分の使命に気付き、そのことが人生に影を落としていきます。そして介護人と提供者になり、人生と向き合わざるを得ない三人。そこで思い出されるのはヘールシャムでの幼年時代です。


”この世界でお互いに共有できる時間がとても短いものであると分かったときに、我々にとって一番大事なものは何でしょうか?この物語が、物質的な財産や出世の道よりも愛や友情そしてこれらを我々が経験したという大切な記憶が本当は価値があるものであると思わせてくれることを願います”


これは「わたしを離さないで」の公式サイトにあった著者の言葉です。この物語はそのSF的な仕掛けばかりに目が行きがちですが、物語の本質はそこではありません。三人が過ごした幸せだった頃の日々、三人の成長と関係、そしてその思い出。それら全てが大切なものなのだ、と言っています。人間はいつしか必ず死にますが、人々は日頃、それを意識する事はありません。しかしこの三人は自分たちの使命から、常に死を意識せざるを得ません。そして、だからこそ三人の日常が思い出が、それは必ずしも楽しい思い出だけではないにも関わらず、輝いて見えます。

「かわいそうな子たち」
キャシーとトミーは物語の最後でそう呼びかけられます。死が宿命づけられた「かわいそうな子」。しかし死が人間の宿命なら、人は必然的にかわいそうな存在なのでしょうね。そしてその死を前に楽しい思い出に涙する主人公のラストは何度も読み返してしまいました。人の人生と、その悲喜が鮮やかに描かれた名作だと感じます。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス
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