読書日記607:ローマ人の物語〈43〉ローマ世界の終焉〈下〉
タイトル:ローマ人の物語〈43〉ローマ世界の終焉〈下〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
西ローマ帝国の皇帝位を廃したオドアケルののち、テオドリック、テオダトゥスと、ゴート族の有力者がイタリア王を名乗り、統治を開始した。これに対して、東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌスはヴァンダル族の支配する北アフリカ、続いてイタリアへと侵攻した。しかし、この17年にも及ぶ東西の攻防のいずこにも、ローマ人の姿はない。ローマ人はもはや地中海世界の主役ではなかったのである。空前絶後の世界帝国は、消え果ててしまったのだ。
感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の最終巻、四十三巻です。ついに最終巻ですね。全四十三冊、感無量です。
最後の四十三巻は「ローマ世界の終焉(下)」ということで、ゴート族に支配された西ローマ帝国と東ローマ帝国のその後が描かれています。オドアケル、テオドリックというゴート族の首領たちに支配された西ローマ帝国に対し、東ローマ帝国には大帝ユスティニアヌスと将軍ベルサリウスが現れます。ローマ法大全を編纂し、西ローマ帝国を再編したことで有名なユスティニアヌス。しかし本書を読むと、再編とは名ばかりで度重なる戦争によりイタリア本土は眼を覆うばかりの惨状となってしまったようです。
戦争の連続で食料が尽き、飢えに苦しむイタリア半島の住人たち。最終巻の本巻では、かつて栄華を誇ったローマが、イタリアが、見るも無残な姿をさらします。徹底して破壊されたミラノの街、そしてゴートの王に根絶やしにされた元老院。息も絶え絶えといった感じのイタリアですね。時代の節目ではどうしてもこのような破壊が起こらざるを得ないのだろうか?と考えてしまいます。
本巻の最後にはローマ時代の硬貨の写真がならんでいますが、必ずしも新しい硬貨の方が質が高い、というわけではないのが面白いですね。硬貨に掘られている時の権力者の肖像を見ると、国が安定していた時代、五賢帝時代などの出来が非常に素晴らしく、衰退期の硬貨の肖像は判読さえ難しいものが多いです。国力は、その国のあらゆる面に表れるのだということがよくわかります。
四十三冊を読み終えての感想ですが、まずはこれだけの作品を書き上げた著者の熱意に感嘆します。最初から最後まで、これだけの分量の作品としては信じられないことに、飽きるということがありませんでした。カエサルのようなヒーローの登場しない衰退期の巻であっても、そうです。これはひとえに、著者の情熱がそうさせているのだろうと私は感じました。どの巻のどのような登場人物についても、思いを持って描いていると感じられました。
そしてもう一つはやはり著者の「主観」ですね。単なる歴史的事実を並べた作品ならばここまで読み切ることができなかったと思います。ここに著者なりの歴史的事実を切り取る切り口、見方があるからこそ、ここまで読めたのだと思います。
本シリーズはローマ人についての知見を深めてくれるだけでなく、歴史全般についての興味を深めてくれる作品でした。読み終えた今となってはさみしさもありますが、それはまた、この著者の別の作品群を読むことで埋めたいと思います。「ギリシア人の物語」や「海の都の物語」など興味をそそられる作品はやまほどあります。また読んでみたいですし、本シリーズで描かれていたローマ世界とどのようにつながっていくのか、楽しみでもあります。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):いくつSがあっても足りません
レビュープラス
この記事へのコメント