読書日記597:ねじまき少女 上



タイトル:ねじまき少女 上
作者:パオロ・バチガルピ
出版元:早川書房
その他:

あらすじ----------------------------------------------
石油が枯渇し、エネルギー構造が激変した近未来のバンコク。遺伝子組替動物を使役させエネルギーを取り出す工場を経営するアンダースン・レイクは、ある日、市場で奇妙な外見と芳醇な味を持つ果物ンガウを手にする。ンガウの調査を始めたアンダースンは、ある夜、クラブで踊る少女型アンドロイドのエミコに出会う。彼とねじまき少女エミコとの出会いは、世界の運命を大きく変えていった。ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞など主要SF賞を総なめにした鮮烈作。

感想--------------------------------------------------
とある書店でポップが飾られているのを見て、読んでみようと思った本です。数々のSFの名だたる賞を受賞している一方で、日本版は誤訳が多いとの噂もある作品です。ちなみに私が読んだのは第四刷です。

利権を握ろうとする白人たち、利権を奪おうとする中国人、賄賂を潰そうとする虎の異名を取る白シャツ隊の隊長、そして遺伝子改変された新人類であるねじまき少女のエミコー。エネルギーが失われ、疫病の流行と水没の危機におびえる混沌の未来都市バンコクを舞台に、物語ははじまるー。

期待を裏切らない作品です。SFというものが今そこにない何かを真実として読み手に提供する者であるならば、この物語は間違いなく、その試みに成功しています。翻訳SF小説に独特の読みにくさを最初のうちこそ感じますが、慣れてしまえばどうということもなく、どっぷりと未来のバンコクにはまることができます。

本書の主人公はだれか?と聞かれると、非常に難しいのですが、敢えて答えるとするとこの未来都市バンコクなのかと思います。それほどこの都市の描き方が半端ないです。ディテールにこだわった街の描写、街のエネルギー源として働く遺伝子改変された象の一種メゴドント、人類を滅びに追い込みかねない数々の疫病や害虫、猥雑でありながら活気に溢れたバンコクの人々ー。普通に読むだけだと少し読みにくいSF小説くらいにしか感じないかもしれませんが、書き手の事を想像しながら読むと、ここまでの世界を作り上げた著者の想像力と構成力は並大抵の者ではなく、「ここまでできるのか」と感じさせられます。

国、企業、軍ー。お互いに利権を求めてぶつかり合う様々な立ち位置の人間たちの物語は、徐々に徐々にと加速を始めます。しかし、確かに登場人物の内面描写もありますが、和製SFと違ってそこまでの強い悩みや自己に関する葛藤などはありません。あくまでも主人公はエネルギッシュな街、バンコクですね。この街を舞台に選んだのがこの物語の鍵かと感じます。

物語は窮地に陥ったバンコクの虎、の描写で終わります。もちろん下巻も読む予定です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

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