読書日記595:ローマ人の物語〈41〉ローマ世界の終焉〈上〉
タイトル:ローマ人の物語〈41〉ローマ世界の終焉〈上〉
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
テオドシウス帝亡き後、帝国は二人の息子アルカディウスとホノリウスに託されることになった。皇宮に引きこもったホノリウスにかわって西ローマの防衛を託されたのは「半蛮族」の出自をもつ軍総司令官スティリコ。強い使命感をもって孤軍奮闘したが、帝国を守るため、蛮族と同盟を結ぼうとしたことでホノリウスの反感を買う。「最後のローマ人」と称えられた男は悲しい最後を迎え、将を失った首都ローマは蛮族に蹂躙されるのであった…。
感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語文庫版、全43巻の41巻です。この巻からいよいよ最後の章「ローマ世界の終焉」に入ります。テオドシウス帝により東西二つに分割されたローマ帝国の国力は衰え、いよいよ滅亡に向かって突き進んでいきます。
この章の主人公は西ローマ帝国の無力な皇帝ホノリウスを支えた軍総司令官のスティリコです。孤軍奮闘するスティリコは、この巻を読むと相当に有能な章であった事は疑いようもありません。少ないローマ軍を率いて、多数を誇る蛮族の将アラリックとの幾度もの戦闘を制し、西ローマ帝国の最後の砦として奮戦します。滅び行く国を支える最後の将ー三国志で言うと孔明亡き後の蜀を支えた姜維のような存在ですかね。英雄や伝説的な名将が登場するのはどの国においても国の興亡の時がほとんどです。特に滅亡の寸前に現れる名将は悲劇的な要素を多分に持っていますが、スティリコもそうした将の一人と感じました。
かつて栄華を誇ったローマ帝国の滅び行く様を描いた本巻には、いろいろと考えさせられる文が多いです。
「人間の運・不運はその人自身の才能よりも、その人がどのような時代に生きたか、のほうに関係してくる」
「人間社会とは、活力が劣化するにつれて閉鎖的になっていくものでもある」
千五百年以上の時を隔てて見るからこそスティリコの真っ当さがわかりますが、同じ世代に生きていた場合には滅び行くローマに誰もが暗い気持ちになっていたでしょうし、その中で蛮族出身の武人の言う事に胡散臭さを感じていたとしてもおかしくはありません。世の風潮や時代の流れというものはどれだけ偉大な力を持っていたとしても一人の人間の力ではあがないきれない者なのだという事を感じます。(「スティリコの真っ当さ」も著者の目線を通じて我々が感じているに過ぎないかもしれませんが。)
衰退と滅亡。
これを繰り返す人の世の歴史の流れの中で感じるのは、「人は知識は受け継ぐことはできても経験を受け継ぐ事は並大抵のことではできない」ということです。技術はどんどん進歩するのに歴史は繰り返すということがそれを如実に表していると感じます。受け継がれた知識により技術はどんどんと進歩するのに、戦争の悲惨な経験は忘れ去られ、いつしか同じ事を繰り返すのですね。その流れからはいかに大国ローマであっても逃れられないようです。
国のために奮闘したスティリコの命を奪ったのは蛮族ではなく、スティリコをよく思わない人々による謀略でした。そして皮肉な事にスティリコの忠臣たちは彼の死後、敵である蛮族アラリックの下に走り、ローマの侵略に加勢します。「見限った」という表現がよくあてはまります。「それみたことか」とはこの時代の一読者だから思う心情でしょうね。あと二巻でこのシリーズも終わりますが、その後の地中海世界の行く末も見てみたい、歴史がどのように流転していくのか見届けたい、と思わせる巻でした。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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