読書日記590:ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉
タイトル:ローマ人の物語〈39〉キリストの勝利〈中〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
若き副帝ユリアヌスは、前線での活躍で将兵や民衆の心を掴んでゆく。コンスタンティウスは討伐に向かうが突然病に倒れ、紀元361年、ユリアヌスはついに皇帝となる。登位の後は先帝たちの定めたキリスト教会優遇策を全廃。ローマ帝国をかつて支えた精神の再興を目指し、伝統的な多神教を擁護した。この改革は既得権層から強硬な反対に遭うが、ユリアヌスは改革を次々と断行していくのだった―。
感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の三十九巻です。「キリストの勝利」の中巻ということで、キリスト教徒からは「背教者」と呼ばれることになるユリアヌス帝の話です。
大帝と呼ばれキリスト教を協力に援護したコンスタンティヌス帝の跡を継いだのはコンスタンティウス。そしてそのコンスタンティウスと対立することになった副帝ユリアヌスは運よく戦うことなく皇帝となります。そしてキリスト教だけでなく、他の宗教も認めるように働きかけていきます。
この巻を読んで思い浮かべるユリアヌスは「無垢な人」というイメージです。王宮に巣食っていた宦官たちを追い出して簡素な暮らしを貫き、哲学の徒でもあったユリアヌスは、自分の思いと正義のみに生き、世俗とは一線を画していたように感じられます。世の楽しみを知らないこのような人が皇帝になると、一般人としてはやりにくいのかな、と感じますね。市民とともに世を楽しんだカエサルなんかと比べると、真面目な人と思われます。
市民の反感を買い、ペルシャとの戦争中に不慮の死を遂げるユリアヌス。彼の死にも疑惑がつきまといますね。残した言葉も本書に書かれていますが、どうも綺麗過ぎて、これもまた後世の人間が創り上げた者ではないか?と感じてしまいます。
信じる宗教がなんであれ、国体がどうあれ、そこに生きるのが人間であるのは今も昔も、古今東西も変わるわけではなく、人の本質や世の流れを変えることはたとえどれほどの権力をもっていてもできないんだろうなあ、って感じます。実際、ユリアヌスが施行した法律の多くは、その後すぐに廃止され、結局はキリスト教優遇政策が続いていきます。
長かったローマ人の物語もあと四巻です。滅び行く国を見つめるのは切ないですが、最後まで読んでいこうかと思います。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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