2016年04月16日

読書日記588:真実の10メートル手前 by米澤穂信



タイトル:真実の10メートル手前
作者:米澤 穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める…。太刀洗はなにを考えているのか?滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執―己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。日本推理作家協会賞受賞後第一作「名を刻む死」、本書のために書き下ろされた「綱渡りの成功例」など。優れた技倆を示す粒揃いの六編。

感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。本書は「さよなら妖精」、「王とサーカス」に登場する大刀洗万智が登場する六編の短編から成る短編集です。「さよなら妖精」では学生だった万智が新聞記者を経てフリーの記者となり、記者の視点から事件の背後に隠された事実を掴んでいくという物語です。

表題作でもある「真実の10メートル手前」から、「正義漢」、「恋累心中」、「名を刻む死」、「ナイフを失われた思い出の中に」、「綱渡りの成功例」と続きますが、どの作品もミステリとしての質も、大刀洗万智の生き方を問う人間ドラマとしての質も非常に高く、さすが、最高のミステリ作家の一人である米澤穂信の作品だと思わされます。

倒産した企業の広報担当女性の失踪、高校生二人の心中、老人の孤独死、少年による幼児の殺人と、どの短編でも、扱われる事件は残酷なものが多く、さらにこれは米澤作品の特徴でもありますが、どの事件も決して安易な終わり方をしません。むしろ残酷な結末を迎える作品も多いのですが、主人公である大刀洗万智はその残酷な結末を迎える作品の中でもかすむことのない強い存在感を持っており、抑えた表現や筆致と融合することで、どの物語も単なる残虐な作品として終わらず、質の高いミステリとなっています。万智の強さが特にわかるのは「名を刻む死」ですね。最後の万智の言葉、これを放てる強さが読者を魅了します。

この大刀洗万智という人物は無表情で発想は飛躍するのですが切れ者で、記者という職業への誇りとを 内に秘めた人物として描写されています。万智の一人称であったり、他者の目線を通してだったりと視点は物語によって変わるのですが、この個性は当然ながら一貫しています。またこれは「王とサーカス」でも顕著でしたが、どの物語の根底にも記者、もっと言うと報道というもののあり方についての問いがあり、万智は常にこの問いを胸に秘めていますね。「真実は何か」と「書くべきか」という二つの問いに対して大刀洗万智が悩みながら出す答えがよく、私はこのシリーズもたいへん好きになりました。

本作の中では、やはり「ナイフを失われた思い出の中に」がいいですね。物語的な繋がりはないですが「さよなら妖精」の後の話でもあり、万智の覚悟が分かる作品でもあります。

これは米澤作 品の新しいシリーズの始まりと考えてもいいのでしょうかね?大刀洗シリーズ、次作もとても楽しみです。またおそらくテレビ化もされるでしょうね。きつい作品が多いので民放よりもWOWOW向きかもしれません。誰が大刀洗万智を演じるのだろう?なんて、まだ早いですが想像も膨らみます。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
posted by taka at 10:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 米澤 穂信 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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