読書日記578:サラバ! 下



タイトル:サラバ! 下
作者:西 加奈子
出版元:小学館
その他:

あらすじ----------------------------------------------
父の出家。母の再婚。サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。大人になった歩にも、異変は起こり続けた。甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。お前は、いったい、誰なんだ。

感想--------------------------------------------------
上巻に続き、下巻です。読み終えた直後の感想。本当にこの本を読むことができてよかった。そう思わせてくれた本です。久しぶりです。こんなに本の持つ力を感じたのは。

大学に進み、社会人となった歩。そして変わらず奇行を繰り返す姉。再婚する母。出家する父。ばらばらになる圷家と信じるものを見出せない歩。そしてー。

私が感動したのは、私がこの作品の主人公である歩と近い歳だからかもしれません。三十七歳。小さい頃に持っていた全能の力は失われて残酷な現実に向き合えない、この主人公のような人はきっと今の世の中にたくさんいると思います。前に進んでいく周囲の人間達に言いようのない苛立ちを募らせ、自分がどうすればいいのか分からない歩。ずっと受身で生きてきた人にとって自分から前に進もうとすることはきっと非常に困難なのでしょう。

軽蔑してきた家族や友人にいつの間にか追い越され、こんなはずじゃなかったのに、と悩む歩。そして信じるものを何も見つけられない歩。上巻を読む限りではこの物語はある家族を描いた物語かと思っていたのですが、この本は主人公の歩がその名のとおり歩き出すまでの物語なのですね。そしてその歩き出すきっかけとなるのがタイトルの「サラバ!」に繋がっていきます。


「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけないわ」


この言葉が全てを語っているように感じます。困難な時期に陥ったときに、自分の中に信じられるなにかを見出せるのか。そして、そもそもそれを探そうとしたのか。人によってその信じるものは違ってくるでしょうし、歩のようにそれを見出せる人は少ないかもしれません。でもそんな人にはぜひこの本を薦めたい。この本こそがその信じるものになる可能性も十分にあると感じます。


「僕は何かことが起きるといつも自分がそれにどれだけ関与しているか確認した。そして「僕は悪くない」と安心していた。」


本書を読んでいて自分的に最も突き刺さる言葉ですね・・・。痛いです。誰もがきっと少なからず何かを感じる言葉でしょう。他人の痛みを自分の痛みとして感じることができた子供の頃と、大人になった今では変わっていないつもりでも感じ方が変わっていることは誰しもが実感していることかと思います。それこそ時間という巨大な「化け物」のせいなのでしょうが、その「化け物」をうまく味方にできると強いのだということもまた、読んでいて分かります。

文章というのは読み手にこのような感動を与えられるのだなあ、と読み終えてしみじみ思いました。直木賞受賞作ですが、当然と感じます。むしろ本屋大賞は二位なんですね。一位はそんなにすごいのでしょうか。一位の「鹿の王」もそのうち読もうかと思います。

この本はぜひ映像化して欲しいと思う一方で、映像化するとその感動が半減してしまうのではないか、とも感じてしまいます。難しいですね。作品が良すぎるだけあって、原作との比較に曝されるのは必至ですから。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

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