読書日記575:遠まわりする雛



タイトル:遠まわりする雛<「古典部」シリーズ> (角川文庫)
作者:米澤穂信
出版元:KADOKAWA / 角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
省エネをモットーとする折木奉太郎は〈古典部〉部員・千反田えるの頼みで、地元の祭事「生き雛まつり」へ参加する。十二単をまとった「生き雛」が町を練り歩くという祭りだが、連絡の手違いで開催が危ぶまれる事態に。千反田の機転で祭事は無事に執り行われたが、その「手違い」が気になる彼女は奉太郎とともに真相を推理する。あざやかな謎と春に揺れる心がまぶしい表題作ほか〈古典部〉を過ぎゆく1年を描いた全7編。<古典部>シリーズ第4弾! 

感想--------------------------------------------------
氷菓」、「愚者のエンドロール」、「クドリャフカの順番」に続く、折木奉太郎、千反田える、伊原摩耶花、福部里志の四人が活躍する古典部シリーズの第四弾です。本作は全七編の短編集となっていて、神山高校入学当初から次の四月までを描いています。

「日常の中の些細な謎を解く」というスタンスはこのシリーズの他の作品と変わりないのですが、本作は特に四人の心の動きに沿って描いています。そしてこの心の描写が青春小説っぽくって、とてもいいです。摩耶花と里志、えるとホータロー、この組み合わせがどうなっていくのか、次巻がとても楽しみになります。しかし青春小説としてはその心の動きがとてもゆっくりで穏やかで、読んでいる側としてはじれったくもなったりするのですが、この著者の小説は皆、そういうものであり、また展開も読者が予想していた展開と違ってきたりするので、この速度がちょうどいいようにも感じられます。

省エネモットーのホータロー、好奇心旺盛で唯一、ホータローを動かせる「私、気になります」なえる、自他ともに認めるデータベースたる里志、強気な口調と裏腹に繊細な摩耶花、とキャラがはっきりしていて、それぞれがそれぞれの個性に強いこだわりを持って動くため、物語にメリハリがでてきています。これがとてもよくって、巻を重ねるごとにどんどんと面白くなってきています。特に「クドリャフカの順番」と「遠まわりする雛」は、それまでの二作とだいぶ印象が違って、面白く読みました。

ベストセラー作家さんだけあって、どのような物語でも自在に書いて読ませてしまうあたりはさすがです。ただ、個人的にはこのシリーズは長く続けてほしいな、と感じます。小鳩くんと小山内さんの「春期限定イチゴタルト事件」から始まる小市民シリーズは続作がでてないですし、キャラも古典部シリーズよりブラックなので、こちらには期待大です。

ブラックな終わり方をする作品も多いのですが、文章力がとても高いですし、ミステリーの作りが非常にうまいのでこの方の作品は大好きです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

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