読書日記572:王とサーカス by米澤穂信



タイトル:王とサーカス
作者:米澤穂信
出版元:東京創元社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
2001年、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智は、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発する。太刀洗はジャーナリストとして早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり……。「この男は、わたしのために殺されたのか? あるいは――」疑問と苦悩の果てに、太刀洗が辿り着いた痛切な真実とは?

感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。このミステリーがすごい!の第一位に選ばれるなど、非常に評価の高い作品です。米澤穂信さんは昨年も「満願」でこのミステリーがすごい!の第一位に選ばれていますね。いま最も面白い本を書く作家さんの一人だと思います。

ジャーナリスト大刀洗万智は滞在中のカトマンズで王族の殺人事件に遭遇する。そして取材を開始しようとした矢先、一つの死体が万智の前に現れるー

まず冒頭のカトマンズの描写からして引き込まれます。街を綿密に描き上げていて、フィクションのはずなのにノンフィクションかと思わせます。ここまで綿密に、舞台をしっかりと描く作品は少なくなったなあ、と個人的には感じます。キャラクターやプロットもそうですが何よりも描写で見せていますね。文章力の確かさもさることながら、綿密な調査を感じさせます。

物語は実際に起きた王族の殺人事件を背景に、一つの死体を巡るミステリーとして展開します。報道とは何か、記者とは何か、そうしたことを読み手に突きつける作品です。タイトルの「王とサーカス」もそうした報道の意味を問う言葉ですね。物語の途中で一度、そして最後に再び現れる言葉ですが、ニュースを伝える事の意味を万智に問いかける言葉です。(詳しくはぜひ読んでください!)

物語の構成は階層的で深いです。示された、と思われた真実と、そのさらに奥に隠された真実、そしてその裏にあるネパールという国の抱える残酷な問題。そうした事柄を一つの殺人事件の背景に潜ませてここまで完成度の高い物語を描く事のできる米澤穂信さんはさすがです。「満願」や「儚い羊たちの祝宴」など傑作の多い作家さんですが、間違いなくそのリストに加わる作品ですね。「折れた竜骨」など、普通と違う舞台や設定を下敷きにしたミステリを書くのが特徴的な作家さんですが、本作もまさにネパールという異国の地を舞台にしたミステリーということで、米澤ワールドの真骨頂だと感じました。


本作の主人公である大刀洗万智は「さよなら妖精」の登場人物です。「さよなら妖精」と直接のつながりはないですのでこの本だけでも楽しめますが、読んでおくとさらに楽しむ事ができますね。

大刀洗万智が活躍する作品は「真実の10メートル手前」が刊行予定です。こちらもぜひ読みたいですね。「氷菓」などに続く新しいシリーズの始まりでしょうか。気がつけばこの著者の作品もかなり読んでいます。次作もとても楽しみです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス

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