読書日記564:ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻
タイトル:ソロモンの偽証: 第III部 法廷 下巻
作者:宮部 みゆき
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
ひとつの嘘があった。柏木卓也の死の真相を知る者が、どうしても吐かなければならなかった嘘。最後の証人、その偽証が明らかになるとき、裁判の風景は根底から覆される―。藤野涼子が辿りついた真実。三宅樹理の叫び。法廷が告げる真犯人。作家生活25年の集大成にして、現代ミステリーの最高峰、堂々の完結。20年後の“偽証”事件を描く、書き下ろし中編「負の方程式」を収録。
感想--------------------------------------------------
宮部みゆきさんの大作「ソロモンの偽証」の最終巻です。本作の主人公である藤野涼子の二十年後を描いた書き下ろし中編である「負の方程式」まで含めて本巻もやはり五百ページ超と、トータルで三千三百ページ超の超大作です。読み終えるとやはり達成感を感じます。
召還される最後の証人。そして明かされる真実。柏木卓也の死の真実とはー。
各登場人物の一挙手一投足まで丁寧に描き、そこに各人の心情を投射する描き方は全巻通じて共通しています。そして読み終えて感じるのは各登場人物への著者の愛情といえるほどの思い入れです。中には被告人:大出俊次のようなどうしようもない個性の登場人物もいるのですが、その描写にさえも愛情を感じます。ひねた人間が一人もおらず真っすぐに真実を探ろうとする法廷の面々の描き方は、中学三年生という年齢とも相まってすっと、読者の胸に落ちてきます。
明かされる真実には、正直に言うとそこまでの意外性は感じませんでした。むしろ「もっと早く真実にたどり着けたはずなのになぜにそこまで回り道をした?」と感じた部分もあります。しかし最後の証人尋問は圧巻です。ここの部分は一文一文を、一語一語を熟読してしまいました。
読み終えて感じるのは死んだ柏木卓也という人間の個性の描き方のうまさです。「小さな仙人」と呼ばれる彼のような人格の持ち主は、確かに中学生にもいると思いますが、なかなか描くのが難しい個性でもあると思います。その卓也を両親や友人の目からしっかりと浮き彫りにし、描き出していきます。この柏木卓也という個性の描き方、そこにぶれがなく、彼を物語の中心に据えて描けるだけの強さを持たせて描いていることができる、といったところがやはりこの著者の作り込みのうまさかな、とおもいました。(言っている事がわかりにくいですかね、、、)。
「模倣犯」と比べるとインパクトは落ちるかもしれませんが、中学三年生を主人公としてその心情を中心に描き込まれた良作だと感じました。ただ、「ソロモンの偽証」というタイトルの意味が最後までよくわかりませんでした。。。(あとがきに少し書いてありましたが。)
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス
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