読書日記557:火星に住むつもりかい?



タイトル:火星に住むつもりかい?
作者:伊坂 幸太郎
出版元:光文社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
住人が相互に監視し、密告する。危険人物とされた人間はギロチンにかけられる―身に覚えがなくとも。交代制の「安全地区」と、そこに配置される「平和警察」。この制度が出来て以降、犯罪件数が減っているというが…。今年安全地区に選ばれた仙台でも、危険人物とされた人間が、ついに刑に処された。こんな暴挙が許されるのか?そのとき!全身黒ずくめで、謎の武器を操る「正義の味方」が、平和警察の前に立ちはだかる!

感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの作品です。全く予備知識なく本書を開きました。タイトルである「火星に住むつもりかい?」から火星に関係したお話なのかと思っていましたが、これは一種の反語表現に過ぎないことが読んでいてわかりました。伊坂テイスト全開のお話です。

平和警察が住民を支配し、怪しい者を処刑する近未来。そんな平和警察に立ち向かう全身黒ずくめで謎の武器を操る「正義の味方」が現れる。彼の正体は?そして世界はどうなっていく?

伊坂作品の中では「魔王」や「モダンタイムズ」と似たテイストの作品です。この二作品が「システム」というやや抽象的なものを敵としていたのに対し、本作では「平和警察」という明確な敵が描かれています。他の伊坂作品にも通じる少しユーモアを交えたような、外したような描写は健在です。ただ、平和警察による拷問、処刑のシーンがかなり克明に描かれていてそこは少し読むのがきついですね。苦しむ人の描写は描く側も読む側もきついのだとは思いますが。

物語は、平和警察により害を受ける人々、つなぎのヒーローに助けられる人々、そして”ヒーロー”の正体を調べる平和警察の捜査官、さらにある理容室の一室の描写を交えながら進んでいき、後半で物語が大きく動いていく、という作りになっています。個人的に特に印象に残ったのは、第三章の”ヒーロー”の生い立ちの部分ですね。悲しみと、苦しみの中から生まれたヒーロー。その生い立ちは胸を打ちます。どこまでも生々しく、偶然に登場することになるこのヒーローの描き方はとてもうまい、と感じます。物語の結末も意外性があって、とてもいいです。ここはネタバレになるので書きませんが、どんでん返しがあったりして、満足のいくものでした。


世の中がよくなることはない。でも、この世界で生きていくしかない。それが嫌なら火星にでも行って暮らすしかない。


この世界で生きていくことの覚悟をつきつけるような一文です。どのようなヒーローが現れたとしても、世の中が急激に変化することなんてあり得ない。たとえ変化しても、その揺り戻しがいつかは現れ、元に戻る。それでもこの世界で生きていくしかない。厳しい文ですが、いい文でもあると思います。本当に、その通りだと感じます。次の作品も楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
レビュープラス

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