タイトル:ローマ人の物語〈32〉迷走する帝国〈上〉
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
建国以来、幾多の困難を乗り越えながら版図を拡大してきた帝国ローマ。しかし、浴場建設で現代にも名前を残すカラカラの治世から始まる紀元三世紀の危機は異常だった。度重なる蛮族の侵入や同時多発する内戦、国内経済の疲弊、地方の過疎化など、次々と未曾有の難題が立ちはだかる。73年の間に22人もの皇帝が入れ替わり、後世に「危機の三世紀」として伝えられたこの時代、ローマは「危機を克服する力」を失ってしまったのか。
感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の32巻ということで、ここから「迷走する帝国」の章に入ります。カラカラ帝の治世から始まる三十年足らずの世ですが、徐々に帝国が衰退していく様がわかります。
カラカラ、マクリヌス、ヘラガバルス、アレクサンデル・セヴェルスと四人の皇帝が次々と帝位につくこの時代ですが、そのいずれもが謀殺されていきます。本巻の最初に書いてある表が興味深いですね。これまでの二百四十年間で帝位についたのが十五人+αなのに対し、この巻からはじまる「危機の三世紀」では七十三年で実に二十二人の皇帝が即位し、そのほとんどが天寿を全うできていません。まさに動乱の時代です。
本巻を読んでいると感じるのですが、もう皇帝に「皇帝」としての威厳や尊厳さえも感じられなくなりますね。カエサルやアウグストゥスの時代や、五賢帝時代の皇帝とはその質も、意味も、大きく違っているように感じられます。「とりあえずその血筋にいたから」「その場にいたから」的な流れで皇帝になる人もいて、皇帝に十分な資質を持っていたとも思えない人も多いです。
この巻の最初で語られるカラカラですが、「全員にローマ市民権を与える」という画期的な施策をとることで、さらにローマを滅亡へと一歩、近づけていきます。取得権を既得権にすることで、ローマ市民というもののあり方自体をかえてしまったのですね。あまり考えずに行った大規模な改正が後々の時代にて大きな災いを引き起こす例でしょうね。
東方ではローマの長年の敵だったパルティアが滅び、ササン朝ペルシャが台頭してきます。時代が新しい動きを見せている中で、なかなか対応できないローマ帝国は、その混迷の度合いをますます深めていきます。ここからは衰退史となるので、読んでいるのがだんだんとつらくなってきますね。長く続いたローマ人の物語も、あと十巻あまりです。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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