タイトル:ローマ人の物語〈31〉終わりの始まり〈下〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
失政を重ねたコモドゥスは暗殺され、ローマは帝位を巡って5人の武将が争う内乱に突入した。いずれもマルクス・アウレリウスの時代に取り立てられた彼らのうち、勝ち残ったのは北アフリカ出身のセプティミウス・セヴェルス。帝位に登った彼は、軍を優遇することで安全保障体制の建て直しを図る。だがそれは、社会と軍との乖離を促すものでもあった。衰亡の歯車は少しずつその回転を早めていく。
感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の31巻です。「終わりの始まり」の下巻ということで、賢帝と呼ばれたマルクス・アウレリウスの時代が終わり、その息子で失政を重ねたコモドゥスの時代も終わり、内乱の時代へと突入しいきます。
コモドゥスの後を継いだペルティナクスが87日間、その次のディディウス・ユリアヌスが64日間の在位で殺されていきますが、この辺り皇帝の座に付き権力を握ることを目指すということは常に死と隣り合わせの危険を孕んでいることがわかります。まあ普通の神経の持ち主なら皇帝につこうなどと思わないでしょうから、このあたりのリスクは承知なのでしょうが。
二人の後を継いだのは皇帝セヴェルスであり、ここから本格的にローマの衰退が始まります。元老院は力を失い、皇帝に意見することもできず、セヴェルスの独裁が続いていきます。そして軍の優遇をはかることで、軍が孤立して力を持つようになり、後々の軍部の独走を許すことになっていきます。善意から始められたことが、結果として悪に帰結する。この部分の著者の言葉は面白いですね。
”もしかしたら人類の歴史は、悪意とも言える冷徹さで実行した場合の成功例と、善意あふれる動機ではじめられたことの失敗例で、おおかた埋まっていると言ってもよいのかもしれない。善意が有効であるのは、即座に効果の表われる、例えば慈善、のようなことに限るのではないか、と”
「どこまでシビアに物事を見ているんだ、この著者は」と思わずにもいられないですが、一般人よりも遥かに人の世の歴史を見つめてきた人の言葉だけに、一笑に付すわけにもいきません。何事も思い通りにはいかない。当初の狙いとは全く別のところに帰結する。こうしたことが世の中の大半を占めているとすると、人は相当に強い意志を持たない限り、歴史に翻弄されるだけではないのか、とも感じてしまいますね。
セヴェルスの後を継いだのは大浴場で有名なカラカラ帝です。しかしこの人も奥さんを追放したあげくに殺し、弟も殺し、と常に血の臭いのつきまとう人のようです。次巻からは「迷走する帝国」ということでますますローマ帝国の衰退が加速していきます。多いと思っていた「ローマ人の物語」も、もう四分の三を読みました。あと少し、ここからは衰退の歴史になりますが、続けて読んでいこうかと思います。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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