タイトル:医薬品の安全性と法―薬事法学のすすめ
作者:鈴木 利廣 (著), 関口 正人 (著), 水口 真寿美 (著)
出版元:エイデル研究所
その他:
あらすじ----------------------------------------------
薬害集団訴訟を土台とした薬害防止活動の実践のなかから生まれた待望の基本書! 薬害被害者、市民、医師、薬剤師、弁護士、研究者らで構成された「薬害オンブズパースン会議」17年の成果を集成。損害賠償法、医事法、生命倫理学、薬剤疫学、社会学などにまたがる課題を体系化し、実践への道をひらく―――いまこそ新しい学問分野 薬事法学 の構築を! ・企業のマーケティング戦略と監視、臨床研究における被験者の権利保護、市販後安全対策、未承認薬など、医薬品を取り巻く今日的な課題に解決の方向をしめす。 ・薬事法学の7つの基本原理から、医薬品安全監視の歴史やシステムの全体像をとらえ、「予防原則」「透明性の確保」「市民参加」「法による規制」の“ 監視4原則" を提唱する。
感想--------------------------------------------------
本書は知人の方に献本いただきました。ありがとうございました。
本書はそのタイトルの通り、医薬品の安全性と法について書かれた本です。本書の最後に著者たちの略歴が書かれていますが、弁護士の方や医療、薬剤関連の仕事に従事されている方々が名を連ねており、内容も専門性の高いものになっています。
本書はまさにそのタイトルの通り、日本で扱われている医薬品の安全性と、それを規制する法について書かれた本です。我々が日常的に使用する医薬品がどのようなプロセスで認可を得ているのか、また薬害エイズや薬害肝炎に代表される「薬害」や、その薬害をきっかけとして発展してきた医薬品の安全性に関する枠組みなどについて書かれており、一読の価値はある本かと思います。「薬」というものに全くお世話になっていない人は今の世の中、ほとんどいないのではないでしょうか。誰もがお世話になる医薬品の安全性がどのように確保されているのか、日本の仕組みと欧米の仕組みがどのように異なるか、などが本書を読む中で明らかになっていきます。
あとがきにも書かれていますが、本書は薬害エイズ問題を担当されていた弁護士の方が、医薬品の安全性について強く意識されたことをきっかけとして書かれています。従って本書の内容は現状の日本の医薬品の安全性の確保について疑問を投げかける内容で多くが占められています。本書を読んでいると分かるのですが、米国のFDAなどに比較して日本の厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)の取り組みはまだまだ遅れている、というのは残念なところでもあります。
本書を読むと、医薬の業界というのは人の命に直結する分野でありながらも利益を出さなければならない構造でもあり、扱いの難しい分野だということがよくわかります。利益を出すためには医薬品の開発や市場への投入を急ぐ必要がある一方で、副作用や薬害を極力減らすために安全性も担保しなければならない。患者への情報公開は必要だが、一方で自社の利益のために公開範囲を定めなければならない、といったジレンマの中で様々な法や規制を定めなければならず、そこが非常に難しいと感じます。こうした「利益と安全性・品質」のジレンマは製造業などでももちろん問題となりますが、体内に摂取する薬は特に安全性確保に尽力しなければならない、と感じました。
FDAなど欧米の取り組みと比較して厚労省など日本の取り組みはまだ甘い、という指摘もありますが、これは規模の違いもあるのではないか、とも感じました。市場規模の広い欧米では治験データの取得も日本と比較すると簡単であり、さらにFDAなどの規制にかけられる人的リソースも異なってくると感じます。また特に欧州は「標準を作成し、それを展開する」ということが非常に得意ですので、その得意分野を活かしている、とも感じられました。
上のように書きましたが、命に直結するだけに安全性や品質をおろそかにしていいはずもなく、ここは日本の市場や規模にあった適切な規制や法を設定していく必要があるとも感じます。欧米の後追いだけではなく、日本独自の規制や法整備の良い方法はないだろうか?などと考えてしまいますね。なかなかすぐにいいアイデアは思いつきませんが、分野は全く異なりますが、日本企業には品質や安全性とコストを両立させている企業も多くあり、何か参考にできる点もあるのではないか?とも感じました。
上にも書きましたが本書は医療・薬剤関連の業務に関与されている方々や、実際に薬害問題の訴訟に関わられた弁護士の方々が執筆にあたられています。資本主義の中で大きな利益を追求し続け、効果的な医薬を創出し続ける製薬企業はもちろん今の中に絶対必要な存在ですが、薬害問題に際して苦しんでいる方々に寄り添い、力となろうとする彼らの活躍には本当に頭が下がる思いでもあります。
「薬」というものは誰しもが多かれ少なかれほぼ必ずお世話になるものであり、身体に取り入れるものでもありますので、その薬がどのようなプロセスで市場に出ているのか、どのようなプロセスで安全性を担保しているのか、我々は薬についてどこまで知ることができるのか、などは知っておく必要のあることだ、と感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
レビュープラス
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