読書日記533:満願 by米澤穂信



タイトル:満願
作者:米澤穂信
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
人を殺め、静かに刑期を終えた妻の本当の動機とは―。驚愕の結末で唸らせる表題作はじめ、交番勤務の警官や在外ビジネスマン、美しき中学生姉妹、フリーライターなどが遭遇する6つの奇妙な事件。入念に磨き上げられた流麗な文章と精緻なロジックで魅せる、ミステリ短篇集の新たな傑作誕生。

感想--------------------------------------------------
米澤穂信さんの作品です。本作は非常に評価が高く、「このミステリーがすごい!」の第一位に選ばれ、本屋大賞の候補にも残っています。


本書は「夜警」、「死人宿」、「柘榴」、「万灯」、「関守」、「満願」の六編が含まれた短編集です。さすがにこのミスの一位に選ばれた作品です。どの作品も非常にレベルが高く、独特の雰囲気があります。

本作に掲載されているどの作品も「事件の犯人を捜す」というタイプのミステリーではありません。ちょっとした謎解きのようなものが含まれた作品もありますが、基本的には物語の最後に隠された真実を読者に提示し、物語の見方が変わる、というタイプの作品です。

上にも書きましたが、本書の見所はなんといってもその独特の雰囲気です。昭和を思わせるどこか古風な雰囲気を醸し出す「満願」、官能的な妖しさを漂わせた「柘榴」、ホラーテイストの「関守」。どれも物語としての完成度はもちろん非常に高いのですが、なによりもその雰囲気に魅了されます。どの作品も非常に完成度が高く、甲乙つけがたいですが、個人的には「関守」と「死人宿」が気に入りました。どちらも読み終えた時の読後感が重く、終わりの一文に怖さを感じさせます。こういうタイプの作品は大好きです。

本書は決してさらっと読めるタイプの本ではありません。最初はその硬く重い文章にとっつきにくさを感じるかもしれません。しかし一端読み出すと、止まらなくなります。この感覚は良作に独特のものと感じました。このあたり、最近では万人受けするミステリを多く書く東野圭吾さんとは対照的です。本作は重く深いですね。

本作は短編集ですので、米澤穂信さんの作品の中では「儚い羊たちの饗宴」に似ています。本作の方がさらに重く感じましたが、どちらも傑作だと思います。米澤穂信作品はときどき「?」と思わせる作品がありますが、本作は大人のミステリの傑作として推せる作品です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
レビュープラス

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