読書日記511:はなとゆめ by冲方丁



タイトル:はなとゆめ
作者:冲方丁
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
わたし清少納言は28歳にして、帝の妃である中宮定子様に仕えることになった。華やかな宮中の雰囲気に馴染めずにいたが、17歳の定子様に漢詩の才能を認められ、知識を披露する楽しさに目覚めていく。貴族たちとの歌のやり取りなどが評判となり、清少納言の宮中での存在感は増していく。そんな中、定子様の父である関白・藤原道隆が死去し、叔父の道長が宮中で台頭していく。やがて一族の権力争いに清少納言も巻き込まれていき…。『天地明察』の異才が放つ最新歴史小説!


感想--------------------------------------------------
冲方丁さんの作品です。「天地明察」、「光圀伝」に続く歴史小説ですが、本作は「枕草子」で有名な清少納言を主人公に据えた小説です。

歌人 清原元輔の娘として生まれた清少納言は、一条帝の中宮、定子に仕えるべく内裏に入る。定子との係わり合いの中で、いつしか清少納言は定子を守り通すことを心に誓うようになる—。

「天地明察」の渋川晴海、「光圀伝」の徳川光圀、そして本書の清少納言と、この筆者の描く歴史小説の主人公は、一般的にはなかなか取り上げにくい人々なのではないかと思います。歴史小説ではどうしても合戦が主となるため、平和な時代を生きた人々は描きにくい、というのがその理由です。ましてや激動の世ならともかく、平安の世を生きた人々など書いて面白いのだろうか—と思うのですが、この著者の手にかかるとこうも面白くなるのか、と驚かされます。


本書では清少納言の半生と、彼女が枕草子を書くに至るまでが描かれているのですが、まず清少納言の生きた平安の世がとても分かり易く描かれており、予備知識が無くてもすらすらと情景が目の前に浮かんできます。内裏に入る前の身の上の話、内裏に入り、定子に仕えるようになった清少納言、そして政敵との戦いで疲労していく定子—。いかなる脅威をも風雅を武器に受け流していく清少納言と定子、二人の姿が平安の世を浮き彫りにしていきます。今と全く価値観の異なる世の中を、丁寧に描く腕はさすがだな、と感じさせます。


「光圀伝」を読んでいても感じたのですが、本書でもやはり強く感じるのは平安の世と今の、死生観の圧倒的な違いです。それまで元気だった人が流行り病によって二、三ヶ月後にはこの世を去ってしまう。そんなことが珍しくない世の中では、人の死は必定であり、生きているいまこそ楽しまなければならない、そんな風に誰もが感じていたのではないでしょうか。そしてそれだからこそ栄えたのが風雅であり、歌なのだろうと感じられます。移り行くものへの愛惜の思いも、今とは比較にならないほどに強かったのでしょうね。

本当にこの作者には驚かされてばかりです。これだけ丁寧に平安の世を描く人が、「マルドゥック・ヴェロシティ」のバイオレンスに満ちたサイバーパンクな世界を描いている人と同じとはとても思えません。才能の塊のような人なのではないかと感じさせます。

政敵である藤原道長により内裏を追われ、落ちぶれていく定子。しかしそれでもその凛とした佇まいは変わりません。枕草子を書くに至った清少納言の心情描写といい、素晴らしい作品だと思います。SFも面白いけれど、歴史小説も面白いと言うのは本当に凄いですね、この著者は。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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