タイトル:オービタル・クラウド
作者:藤井太洋
出版元:早川書房
その他:
あらすじ----------------------------------------------
流れ星の発生を予測するWebサービス〈メテオ・ニュース〉を運営するフリーランスのWeb制作者・木村和海は、衛星軌道上の宇宙ゴミ(デブリ)の不審な動きを発見する。それは国際宇宙ステーション(ISS)を襲うための軌道兵器だという噂が、ネットを中心に広まりりつつあった。同時にアメリカでも、北米航空宇宙防衛軍(NORAD)のダレル・フリーマン軍曹が、このデブリの調査を開始した。その頃、有名な起業家のロニー・スマークは、民間宇宙ツアーのプロモーションを行うために自ら娘と共に軌道ホテルに滞在しようとしていた。和海はある日、イランの科学者を名乗る男からデブリの謎に関する情報を受け取る。ITエンジニアの沼田明利の助けを得て男のデータを解析した和海は、JAXAに驚愕の事実を伝えた。それは、北米航空団とCIAを巻き込んだ、前代未聞のスペース・テロとの闘いの始まりだった──電子時代の俊英が近未来のテクノロジーをリアルに描く、渾身のテクノスリラー巨篇!
感想--------------------------------------------------
本書の作者は「Gene Mapper」という自費出版のSF作品が爆発的に売れて大成功した方です。本作「オービタル・クラウド」とは「軌道の雲」という意味で、宇宙関連のSF作品となります。その表紙のイメージに惹かれて読んでみました。
流れ星の情報を送るWebサービス<メテオ・ニュース>を運営する木村和海は奇妙な振る舞いを見せるロケットの残骸を見つけた。それは全世界を震撼させる宇宙テロの幕開けだったー。
本作を読んでまずはじめに感じるのはその圧倒的な理系分野の知識です。航空宇宙、情報分野の知識がこれまでもか、と散りばめられており、この分野が好きな人はすぐにのめり込んでいくのではないかと思います。地磁気を活用した画期的な推進システム「テザー推進システム」が本書の核となりますが、この分野の知識がある人には読みやすいかもしれませんが、知見がない人にはかなり難しいかもしれません。
物語の舞台もSFらしく東京から始まり、シアトル、テヘラン、セーシェルと世界中にわたり、壮大です。地上から軌道へ、さらに宇宙へ、と大きな物語となっていきます。CIAが出てきたり、北朝鮮、中国、とSFならではの設定ですね。このあたりはSFでありながらサスペンス的要素も含まれています。
物語の核となる技術の裏付けもしっかりしており、物語の規模も壮大なのですが、一方で物足りなさを感じるところもあります。一言で言ってしまうと登場人物に「深み」が足りなく感じるのですね。航空宇宙分野に関して天才的な冴えを見せるカズミ、ITの天才、アカリ、CIAのブルース、クリス、空軍のダレルなどなど登場人物は多いのですが、総じてその人格が浅く感じてしまいます。どの登場人物も怒るべき時に怒り、喜ぶきときに喜び、悲しむべき時に悲しんでおり、何の矛盾もないのですが、逆にそれが人物を薄く感じさせる要因となってしまっています。現実の人間を思い浮かべると、そんな人は逆にまれですし、セリフもどこか薄っぺらいんですね。場面に言葉がそぐわない、というのではなく、 「そんなこと普通は言わないだろ…」っていうセリフが言葉としてぽんぽんでてくるからでしょうね。作り物の人形同士が物語を組み上げているような奇妙な違和感を少し感じました。
必要なのは人物の作込みかな、と感じます。辛い時に泣く人もいれば、笑う人もいる。そうした個性をどう作り込んでいくのか、そこが課題ですね。逆にそれがうまくできた時にはもともとの知識が半端ない作者なので、SFの第一人者となっているのではないかと感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B
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