読書日記506:ヘヴン by川上未映子
タイトル:ヘヴン
作者:川上 未映子
出版元:講談社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
“わたしたちは仲間です”ー十四歳のある日、同級生からの苛めに耐える“僕”は、差出人不明の手紙を受け取る。苛められる者同士が育んだ密やかで無垢な関係はしかし、奇妙に変容していく。葛藤の末に選んだ世界で、僕が見たものとは。善悪や強弱といった価値観の根源を問い、圧倒的な反響を得た著者の新境地。芸術選奨文部科学大臣新人賞・紫式部文学賞ダブル受賞。
感想--------------------------------------------------
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芥川賞作家、川上未映子さんの作品です。ヘヴンというタイトルとは裏腹に重苦しい内容の作品でした。*本レビューにはネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。
同級生の二ノ宮たちから酷いいじめを受けていた僕は、同じように苛められていた女子、コジマから手紙をもらった—。
心情の描写、情景の描写が非常に細やかで、その描写を通じてさらに登場人物の心情を掘り下げていく、というような作品です。主人公の僕、心を通わせるコジマ、僕をいじめる二ノ宮、その仲間の百瀬、そして僕の母。登場人物は多くはありませんが、その各登場人物の心情を情景描写や何気ない会話を通じて掘り下げていきます。
斜視である僕の眼を好きだといってくれるコジマ、意味のあるものごとなんて何一つない、と言う百瀬、そして今とは違う世界に移ろうとする僕。物語は繊細な心情描写を軸に、ところどころに凄惨とも言えるいじめのシーンを交えながら、ゆっくりと進んでいきます。
非常に繊細な作品です。僕、コジマ、いじめる側でありながら一人だけ違う雰囲気を醸し出す百瀬。各人の物事の考え方、各人にとっての世界のあり方、それらを各人の言葉や雰囲気、仕草などを交えて丁寧に描いていきます。
物語自体は読んでて苦しくなる箇所が何箇所もあり、正直、辛い内容の本ではありました。しかし読んだことを後悔する類の本ではありません。終わり方は悲しいですね。美しくはあるのですが、その美しさがコジマの不在をどこまでも際立たせます。かつて同じ世界に生きたコジマ。最高の友達であったコジマ。その彼女を置いて、別の世界に移って全てを忘れて生きていく僕。これは誰の身にも起きたことなのだろうな、と感じます。感受性豊かな中学時代だからこそありえた世界。世界が狭かった頃、それは美しく言うと青春の一こまでもあるのだろうな、と感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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