読書日記485:ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉



タイトル:ローマ人の物語〈23〉危機と克服〈下〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
ヴェスパシアヌスの長男として皇位に就いたティトゥスは誠実を身上とし、ヴェスヴィオ山の噴火によるポンペイの全滅、そして首都ローマの火災という惨事にも対策を怠らなかった。しかし、不運にも病に倒れ、その治世は短命に終わる。続いて皇帝となった弟ドミティアヌスは、死後「記録抹殺刑」に処せられる。帝国の統治システムを強化し、安全保障にも尽力したにもかかわらず、なぜ市民や元老院からの憎悪の対象になったのか。


感想--------------------------------------------------
塩野七生さんの「ローマ人の物語」の二十三巻です。<危機と克服>の下巻ということで、内乱を終息させたヴェスパシアヌス帝の後を継いだ長男と次男、ティトゥスとドミティアヌスの二人の皇帝の話です。

ティトゥスの治世は二年と短く、その後を継いだドミティアヌスは死後に<記録抹殺刑>という刑を課せられた皇帝でもあります。しかしドミティアヌスは北方ゲルマン人の侵攻に対処すべく、リメス・ゲルマニクス、つまりは<ゲルマニア防壁>と呼ばれる壁を作った人物でもあります。

この二人の後には続くのが五賢帝と呼ばれる五人の皇帝の時代、まさにローマの最盛期になりますので、本シリーズのタイトルとなっている危機と克服はまさに成就した、と言ってもいいかと思います。

暗殺され、<記録抹殺刑>という不名誉な刑を課せられたドミティアヌス帝ですが、著者は決してこの皇帝を悪くは書いていません。むしろ公共投資に熱心であり、水道や道路を整備し、蛮族の侵入にも対策を講じるなど、善政を敷いた皇帝として描かれています。しかしいかに善政を敷き、厳格に政治に臨もうとも、厳格すぎると逆に味方がいなくなってしまうようですね。そうしたバランス感覚が残念ながら欠如していたのがドミティアヌスだったように感じられます。そしてそれはまた、いかに皇帝が絶対の力を持っていようとも、元老院や市民をないがしろにした場合、治世を続けることは非常に難しいと言う、ローマの絶妙な、まさに著者が言うところの「デリケートな」政治が成り立っていたことを表してもいます。

本巻の最後にはドミティアヌスの後を継いだ五賢帝の最初の一人、ネルヴァも描かれています。齢七十にして皇帝となり、後継者トライアヌスを選定したネルヴァ帝。この先の五賢帝時代も非常に楽しみです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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