読書日記478:ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉 by塩野 七生



タイトル:ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉
作者:塩野 七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
失政を重ね帝国に混乱をもたらしたネロが自死した翌年(紀元69年)、ローマには三人の皇帝が現れては消えた。ガルバ、オトー、そしてヴィテリウス。初代皇帝アウグストゥスの血統ではない彼らに帝国の命運が託されたが、傲岸、生硬、怠惰という各人の性格に由来する統治力のなさが露呈、いずれも短期間で破滅した。さらにその間、軍団同士が争う内戦状態に突入し、帝政始まって以来の危機的状況に陥る。果たしてローマ人はこれをいかに乗り越えたのか。


感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の二十一巻です。この巻から二十四巻までが「危機と克服」ということで、皇帝ネロの自死に伴う内乱期のローマ帝国の姿が描かれています。かつての繁栄はどこに、という感じです。

皇帝ネロの自死に伴い、ガルバ、オトー、ヴィテリウスの三人が次々と皇帝となり、次々と死んでいく様が本巻では描かれています。一年余りの間に三人もの皇帝が誕生し、ある者は殺され、ある者は自殺し、舞台から消えていきます。ローマ軍団同士が争い、首都ローマが戦場となり、外敵の侵入を許し、と散々な状況です。本巻を読む限り三人とも皇帝の器とは思えませんので、こうなるのも必定かとも感じます。

本巻の冒頭に書かれていますが、ローマは幾度となく危機を迎え、それを克服することで成長してきています。帝国末期はまた別ですが、この三人の皇帝が立った時代の後に「五賢帝」と呼ばれる五人の皇帝の時代が来るわけですから、あながちこの言葉も嘘とは言えません。

本巻で特に印象に残ったのは、軍に攻め込まれたローマの状況を表した箇所です。ローマで激しい戦闘が繰り広げられている横で、ローマ市民たちはその戦闘を見世物のように楽しみ、野次を飛ばし、通常と変わらない生活を送っていたそうです。本巻にも書かれていますが、「上の首がすげ変わるだけで下の暮らしは変わらない」という認識があったからのようです。こうした感覚は、今の我々にも共通するところがあるよなあ、なんて読みながら思いました。今の首相こそ長期政権になりつつありますが、一昔前は首相の首がコロコロと変わり、国民も愛想を尽かしていたあの状況ではないかと思います。

本巻の終盤では三人に続く皇帝としてヴェスパシアヌスが登場します。三人の皇帝と彼の違いは、用意周到さにある、と言ってもいいかと思います。皇帝として立つには何が必要か、それを確認し、ムキアヌスなどの仲間たちと着々と根回しを行い、皇帝の座に上り詰めていきます。

しかし今でこそムキアヌスやヴェスパシアヌスの用意周到さが称賛されますが、これはやはり「勝った者が称賛される」という普遍的な原理によるところが大きいとも感じました。逆にオトーやヴィテリウスが長期政権を築けていたら、称賛されていたのは彼らになるのでしょうし(まあ、失政を繰り返したから失敗したわけですが…)。

しかし、ヴィテリウス率いるローマ軍団に略奪された街などはたまったものではないですね…。同じローマ人に蹂躙されるわけだから、本当に悲劇です。歴史の表舞台には出てこないですが、時代は違えどこうして泣かざるを得ない人々が歴史の片隅には必ずいるのだということを覚えておく必要があるとも感じました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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『ローマ人の物語〈21〉危機と克服』
Excerpt: ローマ人の物語〈21〉危機と克服〈上〉 (新潮文庫)塩野 七生 by G-Tools ガルバ(68-69)、オトー(69)、ヴィテリウス(69)、ヴェスパシアヌス(69-79)、ティト..
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