読書日記474:愚者のエンドロール by米澤穂信
タイトル:愚者のエンドロール (角川文庫)
作者:米澤 穂信
出版元:角川書店
その他:
あらすじ----------------------------------------------
「折木さん、わたしとても気になります」文化祭に出展するクラス製作の自主映画を観て千反田えるが呟いた。その映画のラストでは、廃屋の鍵のかかった密室で少年が腕を切り落とされ死んでいた。誰が彼を殺したのか?その方法は?だが、全てが明かされぬまま映画は尻切れとんぼで終わっていた。続きが気になる千反田は、仲間の折木奉太郎たちと共に結末探しに乗り出した!さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリの傑作。
感想--------------------------------------------------
米沢穂信さんの作品です。少し前にはアニメ化されて放送もされていた「古典部」シリーズの「氷菓」に次ぐ第二作目ですね。完全に積ん読化されていた本ですが、ようやく読むことができました。
奉太郎、える、里志、伊原の古典部四人組は文化祭の出し物として作成されたミステリー映画を見せられる。そのミステリー映画は登場人物の一人が殺されたところで終わっていた。そして彼らは問われる。「この事件の犯人は誰だと思う?」
映画化もされた「インシテミル」や「折れた竜骨」を読んでいて思うのですが、本作の著者はミステリに対して並々ならぬ思い入れがあると感じます。名作や古典と言われるミステリー作品をオマージュとしたり、新しいミステリ方式を考えたりと、ミステリへの造詣が深く、思い入れが強いなあ、と感じます。
本作もこの著者の作品らしく、普通のミステリではありません。よくある学園ものミステリーのように学園で殺人事件が起こったりするわけではなく、学園祭の出し物として作成されたミステリー映画の犯人を当てる、というものです。病気で長期療養に入ってしまった脚本担当の少女の思考を辿っていくことが重要になるのですが、このあたり普通のミステリとの違いを感じますね。通常の殺人ものミステリーだと必ず真犯人がいるわけですが、本作では「ミステリー映画の犯人を当てる」ということで「そもそも脚本家がそこまで考えていたのか」といった脚本家の思考を辿っていくことが非常に重要になります。「もしかしたら脚本家はそこまで考えていなかったのでは?」「そもそも犯人が存在する前提のミステリー映画なのか?」といった、前提を疑ってかかるようなことをしなければならない点が非常に面白いと感じました。
でもこの点って実はミステリ小説を読む我々にも当てはまるんだよなあ、なんて読みながら思いました。我々の読むミステリ小説は当然事実ではないわけで、そうすると自然と作者の想像力、思いの及ぶ範囲がミステリの限界になります。だから著者の思いもよらない解決方法がある場合だって、あるかもしれないわけですね。これが現実との違いかな、なんて感じました。
前作、「氷菓」を読んだのはアニメ化される前なのでだいぶ間が空いてしまいましたが、それでも十分に楽しめました。短編集だった一作目より面白かったと感じたくらいです。「遠回りする雛」など続編も出ていますので読んでみたいと思います。あとは同じ作者の「春期限定いちごタルト事件」に代表される小鳩くんと小山内さんの小市民シリーズですね。これは「秋期限定くりきんとん事件」で止まっていますが、、、続編はでないんでしょうか・・・。楽しみにしています。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
この記事へのコメント