読書日記473:外注される戦争ー民間軍事会社の正体



タイトル:外注される戦争ー民間軍事会社の正体
作者:菅原 出
出版元:草思社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「民間委託」の流れはいまや軍事の分野にも及んでいる。その主役が「民間軍事会社」と呼ばれる企業群だ。戦闘地域での物流サービスから捕虜の尋問、メディア対策、はては実際の戦闘行為にいたるまで、そうした会社が提供するサービスは多岐にわたる。イラクでは、なんと一国の軍隊と同規模の人員を民間軍事会社一社で派遣している例まであるのだ。本書は、イラク戦争以降にわかに注目されている新ビジネスの実態を、企業側および最大の顧客である米軍関係者への取材をもとに描いた刺激的なノンフィクションである。


感想--------------------------------------------------
先日読んだ「機龍警察」の中で描かれていた傭兵の姿から本書に辿り着きました。「外注される戦争」ということで、本書は各地の戦場で活躍するPMC(Private Military Company)と呼ばれる民間軍事会社について書かれた本です。

「民間軍事会社」という名前にぴんと来ない人もいるかもしれません。最近の戦争では正規の各国の軍隊だけではとても成り立たず、戦争関連の兵站や情報収集、プロパガンダ、果ては戦闘そのものまでをも請け負う会社が多く存在し、非常に大きな地位を占めているそうです。イラクで起きた、「ファルージャの悲劇」と呼ばれる米国人が襲撃された事件で犠牲になったのもブラック・ウォーター社という民間軍事会社の社員だそうです。

本書を読むと分かるのは、民間軍事会社という民間組織が戦争に関ることにより、戦争も一つのビジネスとなっている、ということです。その市場は広く、もちろんイラクやアフガニスタンでの直接的な戦闘行為も指しますし、戦場に赴く兵士達の訓練や、戦争が終結した後の国家の治安維持のための警察や軍隊の訓練も当てはまるそうです。

本書を読むと分かるのは、戦争が「良い」「悪い」という価値観を超えたところに、別の価値観がある、ということです。民間軍事会社の存在が正しい・悪いといったことではなく、今現在では彼らがいなくては「戦争は全く成り立たない」ということですね。これは戦争自体だけではなく、治安維持の活動自体さえも成り立たなくなりつつあるということです。

例えばサダム・フセインのネガティブキャンペーンを張ってフセイン=悪という印象を植え付けるのに活躍したのも民間軍事会社ですし、実際に戦闘行為を行なったのも、食料調達や情報収集に活躍したのも民間軍事会社です。現在の戦争はもはやその多様性からとても一国の軍隊で賄えるものではないそうです。

そしてこのように戦争がビジネスとなると当然そこには市場原理が働くことになり、コストダウンの要望が入り、コストと品質が秤にかけられるようになります。この場合の品質はそのまま人命に直結するわけで、その結果生まれたのが上記の「ファルージャの悲劇」のようです。

こうした本を読んでいて強く感じるのは「何事も市場原理に逆らうことはできない」ということです。結局は利益が優先され、弱い人ほどその中で上手く生きていく術を身に着けざるを得ない、ということになります。実際、貧困国と呼ばれるフィリピンなどでは、手っ取り早く稼げるイラクのPMCに命がけで入って仕事をする人も多く、爆弾テロなどの犠牲になる人も少なくないそうです。

平和な日本にいると気付かないことですが、「戦争」というもの自体が経済・市場の一角を占めていて、そこで生きている多くの人がいる、ということは知っておくべきことだと強く感じました。

あともう一つ印象に残ったのは、最近の戦争の形態についてです。冷戦時代などは大国同士の争いに注目が集まっていましたが、最近は破綻国家がテロリストの温床となり隣国の脅威になることが多いらしく、大国を牽制することよりもむしろ破綻国家に秩序を取り戻す方が中心になってきているらしいです。こうしたことも含めていろいろと勉強になる本でした。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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