読書日記472:ソロモンの犬 by道尾 秀介
タイトル:ソロモンの犬
作者:道尾 秀介
出版元:文藝春秋
その他:
あらすじ----------------------------------------------
秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。
感想--------------------------------------------------
直木賞作家 道尾秀介さんの作品です。「背の眼」がホラー、「カラスの親指」が少しコミカルなドタバタ犯罪劇、という印象でしたが、本作は青春小説です。しかしそれでありながら当然、ちゃんとしたミステリーでもあるわけで、そこが道尾秀介さんの作品であるところです。
静、京也、智佳、ひろ子の大学生四人は、カフェに集まっていた。そして静は切り出す。「この中に人殺しがいるのか、いないのか、ちゃんと話し合おう-」
「ラットマン」や「カラスの親指」、「龍神の雨」、そして本作を読んでいると、この作者の作品の完成度は非常に高いと感じます。ミステリー小説の第一人者というと、私はすぐに東野圭吾さんと宮部みゆきさんを思い浮かべるのですが、本作の作者もその二人に匹敵する領域に近づきつつある、とさえ感じます。
まず物語の組み立て方のうまさです。本作を読み進めていくと、作者の作ったいくつかの仕掛けにうまい具合に捕らえられていきます。途中までは「この後はきっとこういう展開になるだろう」と考えながら読んでいくのですが、その読みがことごとく外されます。しかしだからと言ってその読みが外れたのが嫌ではありません。むしろ「あ!こんな展開になるのか」と驚かされるんですね。私もある程度はミステリを読んでいるつもりですが、こういう展開を見せる作品はそんなにないのではないかと思います。
あとは青春小説としての完成度ですね。青春の「残酷さ」と言ったらいいのか、それもしっかりと描かれています。もちろん、その逆の甘酸っぱさも、ですね。特に智佳に恋する静の描き方は読んでいてイタいくらいです。
犬の性質、というのをミステリの仕掛けとして使いながら、青春小説の要素も絡ませ、それでいて謎もしっかりと描ききる。-非常に物語の完成度が高いとしか言いようがありません。ミステリとしての完成度や万人受けする簡潔な描き方、登場人物の描き方はまだ東野圭吾さんの方がうまい気がしますが、この著者にはそれを補って余りあるいい部分があると感じます。
癖はありますが、個人的には本作も読み終えてすっきりと終るいい作品でした。(途中まではかなり心配していたのですが…)これまでにも数多くの作品を書いていますし、このまま行けば将来的にはこの方が日本のミステリ界を背負っていくのかな、と感じたりもします。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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