読書日記461:一刀斎夢録 下 by浅田次郎



タイトル:一刀斎夢録 下
作者:浅田 次郎
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
沖田、土方、近藤ら仲間たちとの永訣。土方の遺影を託された少年・市村鉄之助はどこに消えたのかー維新後、警視庁に奉職した斎藤一は抜刀隊として西南戦争に赴く。運命の地・竹田で彼を待っていた驚愕の光景とは。百の命を奪った男の迫真の語りで紡ぐ鮮烈な人間ドラマ・浅田版新選組三部作、ここに完結。



感想--------------------------------------------------
浅田次郎さんの新撰組三部作の三作目、「一刀斎夢録」の下巻です。新撰組三番隊隊長 斎藤一の話もいよいよ佳境に入っていきます。

甲府で負け、会津で負け、負けて逃げ続けた斎藤一は、ついに警察官となり、西南戦争に赴くこととなる。そこで出会ったのは—。

上巻に続き、浅田次郎さんの文章は読み手を引き込んでいきます。何よりも斎藤一の語り口の描き方が素晴らしいです。最初に上巻を読み始めたときは「なぜ過去を振り返る語り方にしたのだろう?」と思ったのですが、読み終えてその意味が良く分かります。この物語は幕末の動乱を生き抜いた斎藤一が振り返って語るからこそ、重みがあり、読み手に伝わるのですね。

読み終えての感想ですが、本作で著者が描きたかったのは「新撰組」そのものではなく「時代の変化に取り残された者たち」なのかな、と感じました。武士の世が終わり、明治という時代に変わり、それでも刀を手放せず人を切ることで生きる「武士」という者たち。西郷隆盛をはじめ、死に場所を見つけて潔く死んで行く者たちを斎藤一は勝者と呼び、無様に生き残るしかなかった自分を敗者と語ります。

乃木稀典、山縣有朋、西郷隆盛、そして新撰組の面々に斎藤一。変わり行く時代を背景として各々の生き様、死に方を対比することで幕末の動乱に翻弄された人々の人生を描くと供に、新しき大正の世を生きようとする梶原中尉の生き方をも浮き彫りにしていきます。この描き方は非常に上手いです。歴史上の人物を描きつつ、そこにフィクションを織り交ぜることで物語として素晴らしいものに仕上げていく。歴史上の人物を扱っているため中途半端なことをやってしまうと大きな失敗を招きそうですが、浅田次郎さんにそんな心配は無用ですね。

本作は物語として完成しているだけでなく、あちこちに「粋」を感じさせる言葉や言い回しも使われています。こうした言い回しが出来る作家さんもあまり多くは無いのではないでしょうか。文章にリズムがあり読んでいると引き込まれるだけでなく、その重厚な世界観といい、読み終えたときに感じさせる読了感のよさといい、完璧な時代小説だと思います。新撰組三部作の三作目から入ってしまいましたが、一作目、二作目も読んでみようかと思います。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
レビュープラス

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック