読書日記422:日本辺境論 by内田樹
タイトル:日本辺境論
作者:内田樹
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
日本人とは辺境人であるー「日本人とは何ものか」という大きな問いに、著者は正面から答える。常にどこかに「世界の中心」を必要とする辺境の民、それが日本人なのだ、と。日露戦争から太平洋戦争までは、辺境人が自らの特性を忘れた特異な時期だった。丸山眞男、澤庵、武士道から水戸黄門、養老孟司、マンガまで、多様なテーマを自在に扱いつつ日本を論じる。読み出したら止らない、日本論の金字塔、ここに誕生。
感想--------------------------------------------------
本書、日本辺境論は日本人の気付かない、日本人の「辺境人としての」特性を示した書籍です。本書は日本人の特性を捉えるための資料として、日本人を理解しようとするアジアや欧米の人々によく読まれている本だそうです。私も興味をもって読んでみました。
最近では「海賊とよばれた男」などの書評で「日本っていうのは変な国だな(私も日本人ですが、、、)」という感想を抱いていたのですが、本書を読むことで、日本人的な特性をすごくよく理解できました。まさに目から鱗、という感じです。そして本書に書かれている「辺境人としての日本人」ということを念頭に置いて世の中を見渡すと、実に多くのことがすっきりと理解できます。
まず本書で言っているのは、「日本というのは中華思想でいうところの辺境にある国として定義されていて、日本人は辺境人としての特性を逃れられない血肉として持っているのだ」ということです。われわれ日本人は自分たちが世界の中心だ、という意識をどうしても持つことができず、外との比較で物事を語ることしかできない、と言っています。印象的なのは以下の文章ですね。
「他国との比較を通じてしか自国の目指す国家像を描けない。国家戦略を語れない。そのような種類の主題について考えようとすると自動的に思考停止に陥ってしまう。これが日本人の際立った国民性格です。」
まさに、まさに、といった感じです。Appleやサムスンといった海外メーカーとの比較でしか語れない日本企業、中国、米国、韓国といった強国との関係性でしか国のあり方を語れない日本の政治、などなど、少し考えるとすぐにいろいろなことが思い当ります。
また「日本人は場の空気を個人の人権よりも(時には命よりも)尊重する」、「日本人は常に被害者的な立場からものを言う」、「与えられたものの理由を問わずに「そのまま」受け入れてしまう」などなど、少し考えるとすぐに事例が思い当たるような言葉が多く、なるほどなあと感心しつつ、にやにやしつつ本書を読んでいました(本書はまさにこのようににやにや笑いながら読むのがちょうどいいくらいの本ですね)。まさにこれら全ての考え方が「辺境人」という考えで説明できる点が面白いです。
本書の著者は現代思想、哲学、言語学、武道にも通じており、中盤以降はこれら著者の専門知識を活かした論が展開され、いささか難解な箇所も存在します。(特に「機」について語っているあたりでしょうか)ただ、それでも本書を読むと日本人の持つ特性と言うのがすごく明確になって、面白いです。私なりに理解した日本人の特性を並べてみますね。
・常に受け身で主体的になることができない
(黒船にGHQと、国を動かしたのはいつも外圧。政府も企業も「外国に勝つには/追いつくには」みたいな目標ばかりたてる)
・常に「ここではないどこか」を求める
(「今はまだ、道の半ば」みたいな言い方で自己を肯定できるので、自分を追い込めないけど逃げることはできる。「自分探し」みたいな言葉は日本でしか通用しないでしょうね)
・外からのものを持ち上げ、中のものを卑下する
「愚妻」とか、家族を貶めた言い方は日本特有なのかも。「外国はこんなすごいのに、日本は駄目だ」みたいな言い方も多く、このような否定的な書き方をしている私自身も日本的だなあ、って自分で思います。
・場の空気を個人よりも尊重する
KYなんて言葉も日本特有ですかね…。
ただ、著者は日本人らしくなく(?)、これらの意見に対して客観的な視線で物事を語り、決して否定的な視点で語っていません。ここは面白いと思います。しかし、上記のような特性を持つ日本人は、私も含めて、自国や他国をはじめ、様々なことを客観的に見ることができる(できている)のでしょうかね…?我々の「客観的」と海外の「客観的」でさえも大きく意味が異なっているようで、恐い気もします。
ただ個人的な意見ですが、最近の日本で伸びている分野であるアニメや漫画などは、逆に海外を全く意識せずに日本国内に特化して徹底的にドメスティックであることで伸びている気もします。どうせならこの「辺境人特性」を徹底的に貫いて世界に冠たる辺境人として生きていければいいんじゃない?とか思ったりもしました。
本書、海外の人々に多く読まれているようですが、自分たち日本人になんとなく違和感を持つ人にもぜひお勧めです。私的には大ヒットの本でした。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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