読書日記421:ふちなしのかがみ by辻村深月



タイトル:ふちなしのかがみ
作者:辻村深月
出版元:角川書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
冬也に一目惚れした加奈子は、恋の行方を知りたくて禁断の占いに手を出してしまう。鏡の前に蝋燭を並べ、向こうを見るとー子どもの頃、誰もが覗き込んだ異界への扉を、青春ミステリの旗手が鮮やかに描きだす!



感想--------------------------------------------------
直木賞作家、辻村深月さんの作品です。比較的最近、文庫化された作品ですね。本作は「踊り場の花子」、「ブランコをこぐ足」、「おとうさん、したいがあるよ」、「ふちなしのかがみ」、「八月の天変地異」の五編から構成される中編集です。どの作品も少し不思議な、ホラー的な要素を扱っていて、こうした中編集は辻村深月さんの作品では初めてなので期待して読んでみました。

ふちなしの鏡はこちらの世界とあちらの世界を結ぶ鏡。身の回りに少し不思議なことが起きていく—。

月並みな言葉ですが、どの作品もストーリー構成が良く練られていて、読みやすく、質の高い作品です。この方のホラーテイスト溢れる作品というのはこれまで読んだことがなかったのですが、すごくうまいです。

五編ありますが、どれも味があっていいできです。個人的には「おとうさん、したいがあるよ」が面白かったですね。次々と死体の見つかる屋敷と、主人公の送る日常の描き方にとてもギャップがあって(もちろん、あえてそう書いているわけですが)、とても面白く読むことができました。読んでいて、乙一さんの作品を思い浮かべました。ホラーテイストに溢れているけれど、単なるホラーではなく、そこに一捻りあるところがすごくいいです。

また「踊り場の花子」もよかったです。女性が徐々に徐々に得たいの知れない化け物のように見えてくる、その描き方は秀逸です。まさに日常と非日常ですね。連続的にこうしてキャラクターの特性を変えていくあたりはうまいなあ、って思います。

あと「ふちなしのかがみ」はこれぞまさに辻村深月の作品、という感じです。女性のリアルな心情の描き方、やるせない嫉妬に狂う女の心情をすごくうまく書いています。この女性の内面の描き方は、他の作品でも感じるところですが、著者の真骨頂、という感じです。

最後の「八月の天変地異」ですが、これは本中編集のなかで最も美しい作品だと感じました。田舎で暮らす少年達の日常、そこに現れた少し不思議な出来事、そして哀しくも美しい結末—。本作の最後を締め括るにふさわしい作品だと感じました。



本作、辻村作品にしては珍しいホラー作品です。辻村深月らしさは控えめですが、物語の構成力が高くて、質が高いなあと感じさせる作品でした。さらっと読めて少しだけひっくり返る結末の面白さ。少し何があるとすると、終わり方がよくわからず、消化不良なところがある作品が少しあるところですかね。。。「ん?これどういう意味?」みたいな。ここは難しいところですが、ちゃんと一回で読者に理解させないと、読者的には厳しいですね・・・。とにもかくにも、こういう作品って書くのはきっとすごく難しいだろうなあと思いますが、それを感じさせないところも含めて、すごいです。



総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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