2013年06月01日

読書日記419:海賊とよばれた男 下 by百田 尚樹



タイトル:海賊とよばれた男 下
作者:百田 尚樹
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
敵は七人の魔女(セブン・シスターズ)、待ち構えるのは英国海軍。敗戦後、日本の石油エネルギーを牛耳ったのは、巨大国際石油資本「メジャー」たちだった。日系石油会社はつぎつぎとメジャーに蹂躙される。一方、世界一の埋蔵量を誇る油田をメジャーのひとつアングロ・イラニアン社(現BP)に支配されていたイランは、国有化を宣言したため、国際的に孤立し、経済封鎖で追いつめられる。イギリスはペルシャ湾に軍艦を派遣。両国の緊張が走る一触即発の海域に向けて、一隻の日本のタンカー「日章丸」が極秘裏に神戸港から出港したー。世界を驚倒させた「日章丸事件」に材をとった、圧倒的感動の歴史経済小説、ここに完結。「この作品は『小説』という形をとっていますが、登場人物はすべて実在しました。そしてここに描かれた出来事は本当にあったことです。この奇跡のような英雄たちの物語が、一人でも多くの日本人に届くことを心から願っています」(百田尚樹)



感想--------------------------------------------------
先日、紹介した「海賊とよばれた男」の下巻です。上巻で終戦までの国岡鐡造の半生を描いていたのに対し、下巻では終戦後から亡くなるまでの後半生を描いています。

セブン・シスターズ(七人の魔女)と称される海外メジャーの石油会社群によって追い詰められた国岡商店は、政治的な問題により世界の石油会社から関係を絶たれていたイランの国営石油会社から石油を輸入することを決める。しかしその実現のためには途方もない苦難が待ち構えていた−。

読み終えての感想ですが、まずこの本に描かれていることが全て紛れもない事実である、ということに驚きを覚えます。イギリス海軍の眼を欺き、イランからの石油輸入に成功した日章丸。外油と呼ばれる外国資本の石油企業の連合に一矢を報いる形となったこの事件の顛末には、読みながらも胸のすく思いがします。

また日章丸事件の後の国岡商店の様々な活動も凄いです。たった十か月での製油施設の建設、当時はまだ先進的だった海上からの石油のパイプラインによる輸送など、どれも苦労なくしては実現できないことばかりですが、国岡商店はその苦労をものともせずに成功させていきます。

本書のなかで最も感銘を受ける部分は、国岡商店の店主である国岡鐡造の「人間尊重」の精神ですね。国岡鐡造はこの精神を言葉だけではなく、実践として国岡商店に徹底的に浸透させていきます。この「人間を信じる」という態度の徹底ぶりには脱帽です。このゆるぎない信条と、「私欲に走らない」という精神が支柱にあるため、国岡商店は成功を収めることができたのだ、と言い切ることができるかと思います。

一方で少し感じるのは、この本の出版されたタイミングです。昨今の尖閣問題や竹島問題、中国、韓国、北朝鮮などとの関係から、「日本」という国を強く意識せざるを得ない今の時期にこうした「日本のために尽くした」偉人の物語が発行されると、どうしてもその裏には何かナショナリズムめいたものの存在を感じてしまいます。しかしこの本がそうしたナショナリズム的な意味合いで使われているのだとすれば、それはきっと違うのだろうな、とも感じます。

本書を読むと分かりますが、この本の主人公である国岡鐡造(出光佐三)の生き方は、彼が日本を代表する石油会社のトップとして成功したから、という理由で称賛されるものではなく、まさに上にも書いた「人間尊重」を貫いた、という点で凄いのだ、と感じられます。逆に言うと、彼が日本人だからとか、石油会社を大成功させたから、というのは結果論なんかであったりして、本質ではないんだろうな、とも感じさせます。本質的なのは、社員を家族と思い、人間を信頼し、利益優先ではなく、国のため、消費者のために働くその精神なのだ、と強く感じます。

これは日本という国の特長なのかもしれませんが、「戦争で日本人はすごく悪いことをしてきたんだ」という自責の念に過度に走ったかと思えば、その反動のように「日本人の誇りを失ってはならない」といったナショナリズムに走ったりします。他の国もそうなのかもしれませんが、特に日本という国はこの両極端を行ったり来たりする振れ幅が大きい気がします。(島国でなかなか外から日本を見る機会が少ないからかもしれませんが、きっと日本人は「日本」という国自体を客観的に見ることが苦手なのでしょうね。)そして、繰り返しになりますが「昔はこんなすごい日本人がいたんだ」的な「日本万歳」につながる思想の道具として本書が使われるのであれば、それは違う気がするし、国岡鐡造という人はそんな観点から語られるような人ではないと強く感じます。


本書を読む限りにおいて、国岡鐡造という人は外交関係の全くなかったイランからの石油輸入を誰よりも早く実践に移し、さらに冷戦中の当時のソ連からも原油を輸入したりしており、本当に「国民(消費者)の役に立つならなんでもやる」という強い意志を持った人なんだな、ということがよく伝わってきます。国岡鐡造にならって一読者として考えるべきことがあるとすると、それはきっと「周囲の人たちのために自分にできることは何なのか?」と考えることなのかな、と感じました。国という垣根が以前よりは低くなった現在においては自国のことだけでなく、世界の行く末を案じ、私欲を捨てて考えること。これがきっと国岡鐡造の言いたかったことなんだろうな、と感じました。

先にも書きましたが、作品を重ねるごとにこの著者の作品は面白くなっていきます。特に本書では主人公である国岡鐡造と彼を取り巻く人々の生き方がとてもダイナミックに描かれていて、七百ページを超える作品なのに一気に読んでしまいました。著者は本書を執筆中に何度か倒れて救急車で運ばれているそうですが、それだけの熱意を感じる本です。まさにプロフェッショナルの仕事です。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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レビュープラス
posted by taka at 12:59| Comment(5) | TrackBack(2) | 百田 尚樹 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして。
私は「読書ログ」という読んだ本の管理やレビューを書くサイトの運営をしています。

ブログを拝見したのですが、ぜひ読書ログでもレビューを書いて頂けないかと思い、コメント致しました。

トップページ
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こちらでメンバーたちのやり取りの雰囲気がご覧になれます。
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読書が好きな人同士、本の話題で盛り上がっています。
もしよろしければ遊びにきて頂ければと思います。

よろしくお願い致します。
Posted by 読書ログ at 2013年06月03日 13:36
御連絡ありがとうございます。
ぜひ書かせていただければと思います。
後日、登録させていただきます。
Posted by taka at 2013年06月14日 23:08
ご返信ありがとうございます。
もし、ご都合のよろしい時がありましたら、
参加して頂けるととても嬉しく思います。
今後ともよろしくお願い致します。
Posted by 読書ログ at 2013年06月19日 15:52
感動しました。デキる男の考え方は違うと感じました。
歴史もよく理解できて、よかったです。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
Posted by 藍色 at 2016年04月12日 13:09
大変遅くなりましたが、コメントありがとうございました。
様々な書籍を書くこの著者は実に多才な人だと感じます。
またよろしくお願いします。
トラバさせていただきます。
Posted by taka at 2016年06月18日 14:25
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