読書日記418:海賊とよばれた男 上 by百田 尚樹



タイトル:海賊とよばれた男 上
作者:百田 尚樹
出版元:講談社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
「ならん、ひとりの馘首もならん!」--異端の石油会社「国岡商店」を率いる国岡鐵造は、戦争でなにもかもを失い残ったのは借金のみ。そのうえ大手石油会社から排斥され売る油もない。しかし国岡商店は社員ひとりたりとも解雇せず、旧海軍の残油浚いなどで糊口をしのぎながら、逞しく再生していく。20世紀の産業を興し、人を狂わせ、戦争の火種となった巨大エネルギー・石油。その石油を武器に変えて世界と闘った男とは--出光興産の創業者・出光佐三をモデルにしたノンフィクション・ノベル、『永遠の0』の作者・百田尚樹氏畢生の大作その前編。




感想--------------------------------------------------
本屋大賞となった百田尚樹さんの作品です。「永遠の0」など、この方の作品は本当によくヒットします。上下巻で七百ページ強の大作の、今回は上巻です。

石油の販売を手がける国岡商店は終戦を迎え、大きな危機に瀕していた—。

本作は実在の人物、出光興産の創業者:出光佐三の人生を描いた作品です。明治、大正、昭和という激動の時代を、国のため、人々のため、家族のために昼夜を問わず働き、いくつもの大胆な施策で国岡商店を盛り上げていった国岡鐵造(出光佐三)を主人公に物語は進んでいきます。

「永遠の0」や「モンスター」を読んでも感じたことですが、著者は調査に基づいた執筆が本当に上手い方だと感じます。「永遠の0」でも描かれていましたが、戦争に向かう当時の日本の情勢や、その時代を生きた市井の人々、当時の商売のあり方や、商人としての生き方などが、しっかりとした調査を背景に、とても丁寧に描かれています。こうした描き方はこの方は抜群に上手いですね。当時の情勢が目に浮かぶようです。

物語は利益を優先することなく、国のため、人のために商売を営み、他の店の何倍も働くことで利益を上げて店を大きくしていった国岡商店とその創業者、国岡鐵造の生き様が中心に描かれています。特にこの主人公の国岡鐵造という人はすごいですね。本書を読んでいると行動力、判断力、決断力、と全て揃った人のように見えます。また苦境に陥った時には、常日頃からの心がけを見てくれていた人が必ず助けてくれます。このあたりも立志伝中の、伝記にでも出てきそうな人のように感じられます。

上巻は第二次世界大戦の終戦、日本の敗北から始まり、当時の国岡商店の様子、立たされた苦境、さらには時代を遡り、国岡鐵造の生まれたところから終戦までで終わります。有名な日章丸の話は下巻ですね。

本書、文体も読みやすく、あっという間に読めてしまう秀作だとは思うのですが、一方で今の日本でこのような本が大ヒットするということに、少し違和感を感じてしまう部分もあります。

本書の内容は、簡単に言ってしまうと「優れた志と、勤勉さを持った人が、激動の時期を多くの人に助けられながら、国のために人のために生き、成功していく話」であって、まさに「古きよき日本の姿」を描いた作品とも言えるかと思います。

こうした「昔はすごい人がいた」的な話が売れる背景としては、今の日本に行き詰まりを感じている人が多い、ということが言えるかと思います。アベノミクスともてはやされながら、一向に景気の上向きを実感できない人々、特に高度成長期を経験している世代にとってはこの話に描かれている「優れた志と勤勉さで成功できる」過去の話というのは、魅力的に映るのだろうなとも感じます。

しかし一方でこの物語のような話にいつまでも酔いしれていていいのだろうか?と感じるのも確かです。もし仮に今の世にこの物語の主人公のような人物がいたとしても、おそらくここまでの成功は望めないだろうし、ここまでの破天荒な活躍も出来ないだろうな、とも感じます。それは今の世の中は明治、大正、昭和初期とは比較にならないほど高度化し、システム的になり、無茶が通る隙間が限りなくゼロになっているからだと思います。きっと、鐵造のような型にはまらない人間は今の世では生きていくことが非常に難しいのではないかと感じます。

さらに言ってしまうと、当時はシステムがそこまで発達していなかったため、何をするにも人の手を介す必要があり、そこには人間同士の繋がりが生まれる余地があり、そのつながりを通じて自分の人間性を売り込むこともできました。しかし今では人の手がシステムに置き換わることでほとんど人間性が介在する余地がなくなってきています。例えば当時は石油を人間が台車に運んで売り歩いていたため、国岡商店の人々と買い手の間に人の繋がりが生じていましたが、今では何でも通販で変えるため、そこに人間性の関る余地はなくくなってきていると感じます。

言いたいのは「当時と今の日本は全然別の社会であり、今の世の中で『人のつながり』や『破天荒さ』といったものを過度に社会に求めるのは何か違う」ということですね。「国のために」「人のために」という鐵造の理念こそ継ぐべきものであり、その方法論まで真似するのはちがうかなあ、って感じました。

本書は爆発的に売れているそうですが、きっと年配者を中心にヒットしているんだろうな、と感じます。十代、二十代の人々がこの本を読んでどう思うのか、正直なところを聞いてみたい気もしますね。「時代遅れ」と言う人、「すごい」と言う人、おそらく分かれるだろうな、とも感じます。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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