タイトル:ローマ人の物語〈15〉パクス・ロマーナ(中)
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
「帝政」の名を口にせず、しかし着実に帝政をローマに浸透させていくアウグストゥス。彼の頭にあったのは、広大な版図に平和をもたらすためのリーダーシップの確立だった。市民や元老院からの支持を背景に、アウグストゥスは綱紀粛正や軍事力の再編成などに次次と取り組む。アグリッパ、マエケナスという腹心にも恵まれ、以後約200年もの間続く「パクス・ロマーナ」の枠組みが形作られていくのであった。
感想--------------------------------------------------
塩野七生さんのローマ人の物語の文庫版の十五巻です。ようやく全体の三分の一を越えたかな、というところですね。「パクス・ロマーナ(ローマによる平和)」の中巻ということでカエサルの志を継いだローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの国作りの続きについて語られます。
共和制を続ける振りをし続けながら、その裏で着実に帝政への道を開いて行くアウグストゥス。アグリッパ、マエケナスといった有能な部下と供に常設軍の設置、税制の一新といった政策を次々と断行し、パクス・ロマーナの実現に向けての道を進んで行く—
カエサルが武力・政治・演説といった全てに秀でた万能の天才だとすると、アウグストゥスは自分の力の限界を正確に見極めることの出来る、究めて客観的な視点を持った人という印象を持ちます。そしてアウグストゥスは自分に足りない能力を他の人間の力を借りることで補っていきます。武力はアグリッパ、外交や文化面はマエケナスを重用し、帝政への道を着実に進めて行きます。
本巻の主な内容はアウグストゥスによる国づくりや文化的遺跡の建設などの描写が占める割合が多いですね。派手な戦闘の描写はない変わりに、「パクス・ロマーナ」を実現しようとするアウグストゥスの強い意思が感じられる巻ですね。三十代ですでに比類なき権力と権威を手にしていたアウグストゥスは七十代で亡くなるまでの人生の全てを「パクス・ロマーナ」の実現に捧げます。
『「法の精神」とは「平衡感覚」のことを指すのではないか。
平衡感覚とは、互いに矛盾する両極にあることの、中間点に腰をすえることではないと思う。両極の間の行き来を繰り返しつつ、しばしば一方の極に接近する場合もありつつ、問題の解決により適した一点を探し求めるという、永遠の移動行為ではなかろうか。』
自由と秩序という互いに矛盾する概念に対して言及した本巻の中の一文の抜粋です。相変わらず著者の視点や語り口は鋭いと感じます。ローマの歴史に関する深い思索と考察から生み出され、普遍的な言葉として還元されたこれらの言葉は、非常に重く、深いです。そしてこのような深い洞察があるからこそ、この「ローマ人の物語」は名作と言えるのでしょうね。
両腕であったアグリッパとマエケナスを失ったアウグストゥスは、後継者として考えていたドゥルーススとティベリウスも失い、元来虚弱な身体に鞭打って、一人でローマを運営して行くことになります。カエサルの陰に隠れて目立たないアウグストゥスですが、彼も紛れも無く天才ですね。下巻でもアウグストゥスの奮闘は続きます。あと、後継者をどのようにして決めて行くのかも注目です。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
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