読書日記411:あるキング by伊坂幸太郎



タイトル:あるキング
作者:伊坂幸太郎
出版元:徳間書店
その他:

あらすじ----------------------------------------------
この作品は、いままでの伊坂幸太郎作品とは違います。意外性や、ハッとする展開はありません。あるのは、天才野球選手の不思議なお話。喜劇なのか悲劇なのか、寓話なのか伝記なのか。キーワードはシェイクスピアの名作「マクベス」に登場する三人の魔女、そして劇中の有名な台詞。「きれいはきたない」の原語は「Fair is foul.」。フェアとファウル。野球用語が含まれているのも、偶然なのか必然なのか。バットを持った孤独な王様が、みんなのために本塁打を打つ、そういう物語。


感想--------------------------------------------------
伊坂幸太郎さんの少し前の作品です。「あるキング」のキングは野球の王様のことを指します。弱小チーム仙醍キングスに入ることになる野球の王、山田王求の生涯を語った本です。

仙醍キングスの熱烈なファンである山田家に生まれた王求(おうく)。野球の王になるべくして生まれた彼には、しかし波乱万丈の生涯が待っていた—。

本書を読み終えて感じることですが、実に伊坂幸太郎さんらしい作品です。あとがきに、「自分の好きなように書いた」とありますが、まさしくその通りで、伊坂テイスト満載の作品です。

読み始めてすぐ分かるのですが、本作はシェイクスピアの作品、「マクベス」の設定をいたるところで流用しています。マクベスの有名な文章、"Fair is foul,and foul is fair."を基に「フェアはファウル、ファウルはフェア」として野球の言葉として使っていますし、マクベスに登場する三人の魔女になぞらえた黒ずくめの三人組がいたるところで現れます。従ってマクベスを読んでいるとより楽しめるのでしょうが、読んでいなくても十分に楽しめます。(ちなみに私はマクベスは未読です。)

物語は王求の生涯を追う形で少しずつ進んでいきます。野球の王となるべくして生まれた王求が、親や友人達に小さくない影響を与えながら成長していく姿が、伊坂幸太郎さん独特のユーモアと洒落っ気に満ちた筆致で描かれています。王求のために全てを捧げる両親、王求に何とかつなごうとする野球部の友人、王求を何とかプロ野球選手にしようとするバッティングセンターの管理人—。

物語を通じて、王求本人の視点から物語が語られることはあまりなく、王求の才能に惹かれた人々の視点からの語り口で物語りは展開していきます。その特異な王となるべき才能は多くの者をひきつけずにおかず、その才能は多くの人々の人生を変えていきます。

「お前の本塁打が世の中の、不安や苦痛を、悲しみや恐怖をごっそり宇宙にまで飛ばすこともできる」

本書で印象に残った言葉です。恐らくプロ中のプロ、まさにキングとまで呼ばれるに至った人にはそのような力があるのだろうな、と直感的に感じさせます。これは野球に限った話ではないですね。プロの放つ才能に満ちた芸術的な一撃はどんな分野であれ見るものに感動と衝撃を与え、その言葉通りに不安や苦痛を、悲しみや恐怖を吹き飛ばしてしまうのでしょう。

王と呼ばれる者だけが持つその得意な才能を目の当たりにした者達は皆、その才能に酔いしれますが、一方で本人にはその才能を発揮できる時間は限られているのかもしれません。ただ、そのような才能を持つ者はいつまでも現れ続け、人を魅了し続けるのだということを暗示させる本作の終わり方は、やはり伊坂幸太郎さんの作品らしくて好きです。

さて次の伊坂作品は「残り全部バケーション」を読もうと思います。伊坂作品の独特のテイストは人を選ぶかと思いますが、私は好きです。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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