タイトル:ローマ人の物語〈14〉パクス・ロマーナ(上)
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
ユリウス・カエサルが暗殺されてから十五年。彼の養子オクタヴィアヌスは、養父の遺志に逆らうように共和政への復帰を宣言する。これに感謝した元老院は「アウグストゥス」の尊称を贈り、ローマの「第一人者」としての地位を認めた。しかしこの復帰宣言は、カエサルの理想であった「帝政」への巧妙な布石であった──。天才カエサルの構想を実現した初代皇帝の生涯を通じて、帝政の成り立ちを明らかにする。
感想--------------------------------------------------
塩野七生さんのローマ人の物語文庫版の十四巻です。ここから章が「パクス・ロマーナ(平和なローマ)」へと変わり、戦乱の続いていた時代が終わり、カエサルの後を継いだアウグストゥスが帝政への道を開いていきます。英雄が去り、一段落、といった感じですかね。
英雄:ユリウス・カエサルが後継者として指名したオクタヴィアヌスはアントニウスとクレオパトラの連合軍を降し、遂にローマの内乱を終結させます。そして表面的には共和制を、その礎となる元老院を支持し続けながらも、その裏では圧倒的な権威と権力を背景に、着々と様々な改革を推し進め、帝政への道を開いていきます。
十四巻から十六巻の主人公はカエサルの後を継ぎ、帝政への道を開き、帝政ローマの初代皇帝となったアウグストゥス(=オクタヴィアヌス)を中心に話が展開していきます。このアウグストゥスという人はカエサルほどの派手さはありませんが、やはり並々ならぬ能力を持った人間ですね。三十代にしてローマを牛耳れるほどの絶大な権力を手にしながらも、元老院を敵に回すことなくあくまでも裏で着々と帝政への準備をしつつ、ローマの基盤を磐石にするための様々な施策をとっていきます。
カエサルが派手なタイプだとすると、アウグストゥスは冷静沈着な確実なタイプといえるかもしれません。自分が何が得意で何が不得意なのか、そこをはっきりと理解していて、自分の不得意な分野は得意な人に任せることの出来る人ですね。こうした人は実は非常に強いでしょう。決定や判断に迷うこともほとんどないのではないでしょうか。「何かを始めるよりも、続けることのほうが難しい」とはよく言われることですが、そうした意味でもアウグストゥスもカエサルとはまた違う意味での天才なのではないかと感じました。
通貨、軍備、食料、税金、選挙、属州統治と、アウグストゥスはあらゆる分野の改革に着手し、それを成功させていきます。私利私欲とは無縁であったアウグストゥスはひたすらにローマの末永き繁栄を願い、そのために最善の道を進んで行ったようです。このあたり、カエサルのときも感じたのですが、本当に優れた人間が独裁政治を執るのであれば、その国は本当に、すぐによくなっていくのでしょうね。アウグストゥスの治世は約四十年あまりですが、その間に数百年にも及ぶ後のローマの礎が築かれています。数百年も行き続ける制度を作ったわけですから、四十年という期間は非常に短く感じられます。
常にローマの脅威となり続けていた東方のパルティアの脅威をひとまずはとり除き、周辺諸国とも良好な関係を築いたところで本巻は終わります。これまでは周辺諸国や国内での争いの描写の多かった本作ですが、ここからは内政的な話や、国内の話が多くなりそうですね。戦乱の描写が少なくなった分、盛り上がりはあまり感じなくなりそうですが、それでも次巻以降も楽しみです。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):
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