読書日記395:きみはいい子 by中脇 初枝
タイトル:きみはいい子
作者:中脇 初枝 (著)
出版元:ポプラ社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
夕方五時までは家に帰らせてもらえないこども。娘に手を上げてしまう母親。求めていた、たったひとつのものー。それぞれの家にそれぞれの事情がある。それでもみんなこの町で、いろんなものを抱えて生きている。心を揺さぶる感動作。
感想--------------------------------------------------
この本はTBS系で土曜日に放送されている「王様のブランチ」で紹介されていた本です。紹介されていたのはかなり前ですが、読んでみたいと思っていて、ようやく読むことができました。本作は本屋大賞にもノミネートされています。
切っても切れない縁で繋がった親と子。かつての子供が思い浮かべる自分の子供時代と、今の自分。そして自分の子供—。
読み終えて純粋にいい本だった、と思える本です。こういう本に出会えるから読書を続けて行くのかなと思います。
本作は「サンタさんの来ない家」、「べっぴんさん」、「うそつき」、「こんにちは、さようなら」、「うばすて山」の五編で構成される中編集です。どの話も舞台となるのは桜ヶ丘という横浜近辺の街で、各話に微妙なつながりはありますが基本的には別の話です。
本作のテーマは「虐待」です。非常に重いテーマです。子供を傷つけてしまう親、親に傷つけられる子供が、各話で登場します。家庭に問題を抱えた子供のいるクラスの担任となった先生、子供を虐待してしまう母親、かつて虐待を受け、痴呆になった親を抱える娘…。各話に登場する親子の関係はどれも独特です。しかしどの家庭も例外なく親子の関係に問題を抱えています。基本的にどの話も大人の視点から語られるのですが、自分が小さい時に受けた虐待の描写なども加わり、そうした場面を読んでいると、とても辛くなってきます。
しかし本作で語られるのは辛い面だけではありません。悲惨な状況の親子に手を差し伸べてくれる存在や、優しかった思い出など、優しさを感じさせる場面が必ず描かれていて、それが物語りに救いを与えています。
どの物語も心に響く作品ですが、個人的にもっとも響いたのは「べっぴんさん」です。
公園や外ではいい顔をするけれど、うちに帰ると娘に虐待を繰り返す母親。その母親の視点で物語が描かれるのですが、恐ろしいのはその母親の感覚があまり異常に感じられないところです。自分が受けた仕打ちを、子供に繰り返す母親。外で見せる顔とは異なる顔を部屋の中で見せる母親。読んでいると、虐待される子供だけでなく、虐待を行なう母親自身も実は被害者なんだと思わされますが、こうした母親は、実は世の中には多いのかもしれません。
本書を読んでいると「毒になる親」を思い出します。自分がされた虐待を子供に繰り返す親。止まらない負の連鎖。何気ない僅かな優しさであっても、このような連鎖を止める役には立つのだろうな、と感じさせます。
本書を読んでいると、親から子への虐待というのは、「許す」とか「許さない」とか、そういう次元の話ではないのではないか、と感じさせます。たとえどれだけ酷かろうと子供にとって親は親であり、親にとって子は子で、そのつながりは死んでも切れません。そうした運命の下に生まれた親子の関係の中で虐待が行われるというのは本当に不幸なことだと感じさせます。
また、子供というのは本当に物事を良く見ているし、大人のようにずるくないので言葉や行動をそのまま真正面から受けてしまうため、少しのことでも大きく傷付くのだということも、本作を読んでいると良く分かります。子供に対してはきっと大人に対して以上にごまかしは効かないかないのでしょうね。
私は特に筆者と近い世代であり、小さな子供がいるからいろいろと感じることが多かったのだと思いますが、それをおいても読むべき価値のある本だと思いました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S
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