読書日記394:ローマ人の物語〈13〉ユリウス・カエサル-ルビコン以後(下)



タイトル:ローマ人の物語〈13〉ユリウス・カエサル-ルビコン以後(下)
作者:塩野七生
出版元:新潮社
その他:

あらすじ----------------------------------------------
前44年3月15日、ローマ都心のポンペイウス回廊で、ブルータスら十四人の元老院議員にカエサルは暗殺される。地中海全域を掌握し、迅速に数々の改革を断行、強大な権力を手中にして、事実上、帝政を現実のものとした直後のことだった。カエサル暗殺の陰で何が起こっていたのか。カエサル亡き後の帝国を誰が継承するのか。そして、カエサルの遺した壮大なる世界国家の構想は、果して受け継がれていくのだろうか。


感想--------------------------------------------------
ローマ人の物語の文庫版十三巻です。タイトルは「ユリウス・カエサル ルビコン以後 下」ということで、実に六巻をかけて語られてきたカエサルの活躍も本巻で幕を閉じます。

「ブルータス、お前もか!」というあまりにも有名な言葉と供に暗殺者の刃の前に散ったカエサル。しかしその遺志はカエサルが後継者として遺言状で指名していた十八歳の若者、オクタヴィアヌスがしっかりと継いでいき、「少年」というあだ名で揶揄されていた若者は帝政ローマの初代皇帝、アウグストゥスへと変貌を遂げていきます。

このカエサルからオクタヴィアヌスへの継承は見事としか言いようがありません。まだ若干十八歳だったオクタヴィアヌスの素質を見抜いたカエサルも見事ならば、カエサルの指名にしっかりと応え、その素質を開花させていくオクタヴィアヌスも見事です。あまりにも見事すぎてなんというか、、、作り話めいて聞こえてきてさえしまいます。。。オクタヴィアヌスの力もあるのでしょうが、やはりカエサルの名前が非常に効いていたのだろうな、と感じさせます。

また本巻はこれまでの本シリーズの中でも特に著者である塩野七生さんの主観が多く入っているところが多くて、そこがまた物語を面白くしています。この方は本当にカエサルが好きなんですね。古代の歴史家に「ローマが生んだ唯一の創造的天才」とまで言われるカエサルですが、一方で多くの愛人を作り、多額の借金を作り、といった側面もあり、手放しで褒められる人ではなかったようです。しかしそこまで含めてカエサルという人間のことをこの方は愛しているんだなあ、と感じさせます。まさにカエサルの生涯の愛人であったセルヴィーリアの愛し方「あるがままを愛する」ですね。

しかし一方で、アントニウスと組んでオクタヴィアヌスに対抗した絶世の美女、クレオパトラに対しては厳しいですね。。。まさに「傾国の美女」のクレオパトラですが、やはり同姓である女性だからなのか、本書では「野心のある小賢しい女」といった印象の、非常に辛辣な書き方をされているなあ、と感じます。


「ひとかどの女ならば生涯に一度は直面する問題に、彼女(クレオパトラ)も直面したのかもしれない。つまり、優れた男は女の意のままにならず、意のままになるのはその次に位置する男でしかない。この問題にどう対処するかで以後の生き方が変わってくる」


本巻で最も印象に残った文章です。もちろん、「優れた男」がカエサルやオクタヴィアヌスのことであり、「その次に位置する男」がアントニウスのことです。二番目に位置するアントニウスを選んだクレオパトラは結果として悲惨な末路を辿って行くことになります。

しかしカエサルほどの男は数百年に一人、現れるか現れないかでしょうし、彼のような天才と比較されてしまうと誰もが二番目以降に位置する男でしかなくなってしまうかと思うのですが、それを考えてもクレオパトラには厳しいですね。。。嫉妬?とさえ思わされます。冷静な語り口の中にときたまこのような著者の主観が入るところが本シリーズの面白さだなあ、って思ったりしています。

本巻はカエサルの遺志を継いだオクタヴィアヌスが遂にアントニウスとクレオパトラを倒し、共和制ローマから帝政ローマへの扉を開いたところで終わります。次巻からは「パクス・ロマーナ(平和なローマ)」ということで内戦終結後の久方ぶりの平和なローマについて読めそうです。また次巻も楽しみです。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):


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