タイトル:犯罪
作者:フェルディナント・フォン・シーラッハ (著), 酒寄 進一 (翻訳)
出版元:東京創元社
その他:
あらすじ----------------------------------------------
一生愛しつづけると誓った妻を殺めた老医師。兄を救うため法廷中を騙そうとする犯罪者一家の息子。羊の目を恐れ、眼球をくり抜き続ける伯爵家の御曹司。彫像『棘を抜く少年』の棘に取り憑かれた博物館警備員。エチオピアの寒村を豊かにした、心やさしき銀行強盗。-魔に魅入られ、世界の不条理に翻弄される犯罪者たち。高名な刑事事件弁護士である著者が現実の事件に材を得て、異様な罪を犯した人間たちの哀しさ、愛おしさを鮮やかに描きあげた珠玉の連作短篇集。ドイツでの発行部数四十五万部、世界三十二か国で翻訳、クライスト賞はじめ、数々の文学賞を受賞した圧巻の傑作。
感想--------------------------------------------------
この本は国内外で様々な賞を受賞して話題となった本です。一時期は書店の棚に何冊も平積みにされていました。
本作は全200ページ程度の本に十一編もの短編が詰まった連作短編集です。各短編に共通している点は「犯罪」。全ての物語で犯罪者と犯罪が扱われており、弁護士である「私」の視点を交えながらその犯罪について語られていきます。
犯罪を扱っている作品ですが、主題は犯罪そのものではありません。多くの作品で主役となるのは犯罪を犯す犯罪者であり彼らの人生です。本書では各登場人物が犯罪を犯すに至った経緯が淡々とした語り口で語られていきます。喜劇に悲劇、物語で語られる各犯罪者の人生は実に様々です。日本にいては実感の出来ない、凄まじい格差と多種多様な民族で構成されるドイツだからこその、様々なストーリーに読者はいつしか没頭していきます。
冒頭にも書きましたが全200ページに対して十一編の短編が詰まっているので、一話はせいぜい二十ページ程度、短い物だと十ページ程度の作品もあります。しかしこの作品の特徴とも言える淡々とした語り口が逆に各登場人物の感情や個性を際立たせ、短いページ数ながらどの物語も味わい深い物に仕上げています。この語り口の上手さ、物語の簡潔さが一つの大きな魅力となっています。
また物語の多くでは犯罪者の人生の様々な側面を見ることが出来ます。私が特によかったと感じたのは「フェーナー氏」、「チェロ」、「エチオピアの男」の三編です。「フェーナー氏」では長年連れ添い愛し続けた妻を七十を越えてから斧でめった打ちにして殺したフェーナー氏の人生が語られます。裁判の場で明らかにされる聖人のような彼の心の奥の苦悩。これこそが人間ドラマだと感じさせられます。また残酷なまでの悲劇である「チェロ」と、最後に読者に涙を浮かべさせる「エチオピアの男」のどちらも、人間ドラマとして、とても光っています。
本書を読み終えて感じるのは、「犯罪」とは何なのかということです。特にこれは最後の「エチオピアの男」で強く感じます。何が罪なのか。そして何が裁きなのか。そうした問いにもさらっと答え、いい終わり方を見せる「エチオピアの男」は特に感動的な一編でした。
本書の著者は元々弁護士であり、自身の体験を基に本作を書かれているそうです。そうした点も物語にリアリティを与え、味わい深い物に仕上げています。あっさりとした、しかし読み応えのある大人の作品だと感じました。
総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A
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