読書日記383:新世界より(下) by貴志祐介



タイトル:新世界より(下)
作者:貴志祐介
出版元:講談社
その他:第29回(2008年) 日本SF大賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と嗚咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近付くために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的大傑作! PLAYBOYミステリー大賞2008年 第1位、ベストSF2008(国内篇) (講談社文庫)



感想--------------------------------------------------
「新世界より」の下巻です。この巻だけで五百ページ以上とすごい分量なのですが、全く気になりません。上巻、中巻を読んで下巻まで辿り着いた後は、一気呵成に最後まで読んでしまいます。全くもって止めどころがありません。気付いたときには読み終えていました。

二十六歳になった早希は保健所でバケネズミの実態調査と管理を仕事して働いていた。そんなある日、バケネズミ同士の小さないざこざが発生する。そしてそれはとんでもない悲劇の始まりだった。殺戮の日に終止符を打つために、早希と覚は旅に出る—。

最後まで読み終えての感想ですが、凄まじい物語です。
千年後の世界をリアリティをもって描き出すその描写力、徹底した調査と考証に基づいた時代背景の創りこみ、各キャラクター、特に早希と覚の個性の描き方、物語の構成、その結末と、何をとっても超一流です。これほどの本に出会う事が出来るのは稀ですね。著者が得意としているのがホラー的な分野なので、どうしても殺戮、血、恐怖といった要素がつきまとい、その手の要素を苦手としている人には向かないのですが、その手の要素に触れることが問題ない人であれば、ぜひ読んでいただきたい本です。特にSF、ファンタジーが好きな方にはたまらないのではないでしょうか。本当におもしろいと感じた作品です。

本巻は前半途中から大々的な殺戮がはじまり、その昂奮のまま一気に最後まで突き進んで行きます。殺戮、増える犠牲者、その犠牲者の屍を乗り越えて進む生者—。息付く暇もありません。著者の貴志祐介さんは本書で「人間の業を描きたかった」とおっしゃっているそうですが、それを最も感じたのは物語の一番最後です。全てが終わった後、ふとしたきっかけでわかるバケネズミの正体。その正体に戦慄した読者は私だけではないのではないでしょうか。もちろん我々の誰も、この物語に出てくる人間のように呪力と呼ばれる超能力を使えるわけではないので、最後の最後で物語を見る視点がくるっと変わるような衝撃を受けました。

貴志祐介さんの作品は本作以外にも伊藤英明さん主演で映画化が決まっている「悪の教典」と「黒い家」を読んでいます。どちらも非常に面白く、一気呵成に読んでしまう中毒性をもっているのですが、私の中ではその二作以上に本作は面白かったです。これまで読んだ貴志祐介さんの作品の中でナンバーワンというだけでなく、他のSF作品と比較しても五本の指に入る面白さでした。本作は日本SF大賞をはじめとする様々な賞を受賞していますが、さもありなん、という感じですね。

選んで読んでいるので当たり前と言ってしまえばそれまでですが、本作にはじまり冲方丁さんの「マルドゥク・スクランブル」や伊藤計劃さんの「虐殺器官」に「ハーモニー」、さらにはやはり伊藤計劃さんと円城塔さんの作品である「屍者の帝国」と、最近読むSFはどれも面白くはずれがありません。面白い作品ばかり読んでいると、そのジャンルが知らず知らずのうちに好きになってきますね。SFはまだほとんど読んだことがないので、これを機にいろいろな名作も読んでみようかな、とも思いました。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):S


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『新世界より』
Excerpt: 『新世界より』貴志祐介講談社文庫(上中下) 『青の炎』,『黒い家』,『十三番目の人格―ISOLA』,『クリムゾンの迷宮』,『天使の囀り』,『悪の教典』,『ダークゾーン』 当代随一のヒットメーカー貴志祐..
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Tracked: 2012-11-29 13:40