読書日記376:イニシエーション・ラブ by乾 くるみ



タイトル:イニシエーション・ラブ
作者:乾 くるみ
出版元:文藝春秋
その他:

あらすじ----------------------------------------------
僕がマユに出会ったのは、代打で呼ばれた合コンの席。やがて僕らは恋に落ちて…。甘美で、ときにほろ苦い青春のひとときを瑞々しい筆致で描いた青春小説ーと思いきや、最後から二行目(絶対に先に読まないで!)で、本書は全く違った物語に変貌する。「必ず二回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。


感想--------------------------------------------------
イニシエーション・ラブという小説のことは何度か聞いたことがあり、「最後から二行目で物語が大きく変わる」という物語の内容もよく耳にしていました。その噂もあって前々から読んでみたいと思っていたのですが、ようやく読むことができました。


合コンの席でマユと出会った鈴木。恋に落ちた二人は、甘い夏の一時を過ごして行く—。

物語の舞台は八十年代後半。携帯電話もなく連絡には公衆電話を使い、テレビでは「男女七人夏物語」が放映されていた時代。しかし時代に関係なく男女はいつも恋に真剣で、必死で、互いを求めていきます。本作はSideAの五章とSideBの五章の計十章に分かれているのですが、とくに前半の五章では合コンで出会ったマユに惚れて、初めて女性と付き合うことになった鈴木の心情がとても細かく精緻に描かれているなあって感じます。このあたりの描写は、女性の作家さんなのにとてもうまく男性の心を描いているなあ、って感じました。初めてのデート、初めての彼女、初めてのクリスマス……。揺れ動く鈴木の心と、徐々に見えてくるハッピーエンド。そうした描き方はとてもうまいです。

またSideBに入ると大学時代の話から一転し、鈴木が就職し東京に出たところから話が始まります。遠距離恋愛となった鈴木とマユ。そして次第に離れて行く鈴木の心。切ないなあ、って思っていたところで、最後の二行目で物語が一転する、という仕掛けです。

実際のところ、「最後の二行目で」というのは言いすぎですね。その数行前から仕掛けは分かってきますし、あらかじめ「仕掛けがある」という意識を持って読み進めていけば、再読するまでもなく仕掛けに気付いていきます。(実際私は読んでいて「ああ、こういうことか」と気付くことができました。)

仕掛けに気付いたところでの感想は、「やっぱり女性のほうがしたたかだな」ということです。男性目線でのストーリー進行であり、男性の苦悩や葛藤がメインで描かれているのですが、本作で描かれている女性たちは皆、その一枚上を行っている気がしました。一枚上を行っているだけでなく、男性のようなへまをしないようにぬかりがありませんね。(このあたりは読んでいただくくとよくわかるかと…。)まあ実際もこのようなもんでしょうね。

恋愛を中心とした本編の描き方は普通にいいとは思うのですが、仕掛けのところばかりが気になってしまい、少し冗長に感じられてしまいました。「最後の二行の衝撃」ばかりが気になって、先を読み進めることばかり考えてしまうのですね。物語的には面白い本だと思いました。

総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):A


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「イニシエーション・ラブ」 乾くるみ
Excerpt: 少し前に映画化され「ラスト2行のどんでん返し」に興味をひかれて読んでみた「イニシエーション・ラブ」。噂に違わぬラストのオチのインパクトに、他の読者同様、最後の2行を読んでから、最初から気になるところを..
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