読書日記374:鍵のない夢を見る by辻村深月



タイトル:鍵のない夢を見る
作者:辻村深月
出版元:文藝春秋
その他:第147回直木賞受賞

あらすじ----------------------------------------------
普通の町に生きる、ありふれた人々がふと魔が差す瞬間、転がり落ちる奈落を見事にとらえる5篇。現代の地方の姿を鋭く衝く短篇集


感想--------------------------------------------------
先日、直木賞を獲った辻村深月さん。その直木賞受賞作が本書、「鍵のない夢を見る」です。「仁志野町の泥棒」、「石蕗南地区の放火」、「美弥谷団地の逃亡者」、「芹葉大学の夢と殺人」、「君本家の誘拐」の五編からなる短編集で、トータルで二百三十ページ程度と読みやすい厚さの作品です。

本書に掲載されている五編の短編には相互に一切のつながりがありません。強いて言えば、どの作品も犯罪を描いている、ということでしょうか。しかしその犯罪がメインではなく、それに巻き込まれた人の心理描写、特に悩みや苦しみ、葛藤といった部分が主に描かれており、どちらかというと重苦しい作品が多いです。(多いというか、全てそうです。)

五編のうちの三編で男女の恋愛のような、関り合い方のようなものを描いていますが、そのどれもが本当に暗く苦しいです。はっきり書いてしまいますが、どの短編に出てくる男女も駄目で、壊れています(特に男)。

特にある一編で出てくる男は夢と現実の区別が付かず、大学を卒業しても現実を見ずに自分の夢の中にだけ生きていき、その結果として付き合っている女性を不幸にしていくのですが、男の私から見ると、『なんでこんな男と付き合うの?振り回されるの?』って思ってしまいますね。清浄な夢の中だけに生きている男に惹かれていくようなのですが、正直言って私にはその気持ちが全く分かりませんでした。このような、駄目な男に付きまとわれてずるずるとひきずってしまう女の描き方は、「凍りのクジラ」などでも描かれていましたが、この作者はうまいですね。この短編、「芹葉大学の夢と殺人」が本書の中では一番読み応えがありました。ただ、好きかといわれると、微妙ですが…。

五編とも主人公は女性であり、ふとしたきっかけで揺れる女性心理の描き方はさすがに直木賞作家だけあって非常にうまいですね。小学校時代の友達を見かけた瞬間に思い出される過去、泣き叫ぶ赤ん坊に疲れてへとへとになっていく母親、出会い系サイトで知り合ったストーカーまがいの男と旅を続ける女、学生時代の夢を引きずり続ける男に振り回される女…。その誰もが心のどこかに満たされないものを抱えているようにも感じられます。そして、過去の思い出や、男や赤ん坊に振り回されていきます。

確かに心理描写は秀逸なのですが、正直、読んで楽しい本かと言われると、頷きにくいところがあります。女性の抱えている負の感情ばかりが文章に現れていて、前向きな気持ちになれる作品がありません。。。ここらへんが「凍りのクジラ」などとの違いかな、って感じました。

直木賞は作品よりも、著者に与えられる側面が大きい作品だと私は思っているので、辻村深月さんの受賞は妥当だと思いますが、この作品はないかな、って感じてしまいました。また次回作にも期待です。


総合評価(S・A・B・C・D・Eの6段階評価):B


↓よかったらクリックにご協力お願いします
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
レビュープラス

この記事へのコメント


この記事へのトラックバック

鍵のない夢を見る 辻村 深月
Excerpt: 鍵のない夢を見る 5篇の短編集。 ささやかな夢を叶える鍵を求めて 5人の女は岐路に立たされる…帯より タイトルは「仁志野町の泥棒」 「石蕗南地区の放火」 「美弥谷団地の逃亡者」 「芹葉大学の..
Weblog: 花ごよみ
Tracked: 2012-09-27 18:35

「鍵のない夢を見る」 辻村深月 文芸春秋
Excerpt: 直木賞受賞作作者が若いので(1980年生)ちょっと感覚的なずれを感じるところがあって、あまり読みたいと思わなかった。だが、(なぜか今度も短編集だったが)予約の取り消しを忘れていて読んでみた、これが..
Weblog: 空耳 soramimi
Tracked: 2012-12-31 02:51

事件を向かえ・・・
Excerpt: 小説「鍵のない夢を見る」を見ました。 著者は 辻村 深月 5つの短編集 それぞれ繋がりはなく、女性と犯罪絡みといったところぐらいか 事件に合って、そこからむかえるドラマ 苦悩が見え、その先は・・..
Weblog: 笑う社会人の生活
Tracked: 2013-12-03 17:31